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せめて私は、それを大切にしたいんだ。

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自分が書いた詩や小説等を集めています。
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2021年12月の記事一覧

【短編小説】雨の日のグラウンドを見るたびに、いつも人口密度のことを考えていた。

少しずつ濡れていくグラウンドを見るたびに、いつも人口密度のことを考えていた。 体育の授業をしていたどこかのクラスも、雨が降り出すと先生の指示で撤収していく。この教室内の僕ら数十人だけじゃない。校舎中のほとんど全ての人が今、教室の中で静かに座っているのだ。 それが時々、妙に不思議だった。 あんなに大きなグラウンドがあるのに、なぜ僕らは教室に閉じこもっているのか不思議でならなかった。 少し大粒の雨がグラウンドを塗りつぶして、最後には水溜りを作るのを見ているのが好きだった。

【短編小説】絶望した人を

彼女がいつもトイレで泣いているのを知っていた。 ただいまと廊下の方に声をかけ靴を脱ぐ。蒸れた靴からの開放感を感じつつ、ネクタイを緩めて足早に自室に向かう。最近は帰るとすぐ着替えるようにしている。就職当初は格好いい、似合っていると言ってくれたスーツも、今は新人なりも仕事を任されて「上手くいっている」僕と何もできない自分とを比べてしまうらしく、少し前から、玄関で出迎えてくれるとき(本人は気づいていないだろうけど)辛そうに笑うのだ。 今日のように少し早めに帰宅すると、大抵彼女は