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せめて私は、それを大切にしたいんだ。

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自分が書いた詩や小説等を集めています。
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2021年11月の記事一覧

【短編小説】制服で側転したいんだ

廊下でクラスの男子数人が騒いでいる。バク宙の練習をしてみたり、側転を見せ合ったり。飽きることもなく最近はずっと。教室の女子に「男子危ないでしょ」と注意されると一旦はやめるけど、次の休み時間にはしれっと誰かが練習を始めている。 馬鹿だとは思った。マットもない廊下でバク宙の練習なんて。でも、教室の中ひとり騒がしい廊下の話し声を拾っている私よりは幾分清々しい。 誰もいない放課後の廊下で、私もやってみようか。体操部じゃないしバク宙はさすがに無理だけど、側転くらいなら今の私にもでき

【詩】エタノール

水のフリして漂って 油のフリして浮かんでた H2Oじゃないのなら 君は僕らと一緒だよ そうして水面の輪に紛れても 水にもなじめる私は肩身が狭くて 一滴の洗剤に怯える あの子にはなれなかった 君は僕らと同じように 僕らの手を取れるじゃないか そう言って手を差し出され H2Oの中で踊っても あの正四面体の美しい 結晶の輪には入れてもらえない あの子の手を取って 結晶を作れる私であれば H2Oになれたというの? 水のフリして漂って 油のフリして浮