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せめて私は、それを大切にしたいんだ。

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自分が書いた詩や小説等を集めています。
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2020年7月の記事一覧

信仰

僕の手には何もなくて、君は簡単に先に行ってしまう。待って、とは言えなかった。ただ、先に行ってもいいから僕の視界から消えないでほしかった。自分には君を引き留める何の手段もないことを痛感していた。君との間には摩擦が全くなくて、だから君の袖に触れられたとしても、君はすり抜けてどこかへ行ってしまえる。なのに、「僕が君の袖に触れた程度では君はこれっぽっちも変わらない」という事実になぜか安心した。 まるで渓流のあおい水面でも見ているかのようだった。流れは手では掬えなくて、でも水面に触れる

どこかの誰かの、オレンジ色の光でありたい。

ただ''そこ''に何もないことを願っている。 僕が半透明ならば良かったのにと思う。 顔を合わせれば思い出してもらえるけれど、 会わない間は静かに忘れられているような。 誰の明日にも触れず誰の人生にも介入しない、 誰かの今日にだけ唯一すれ違うような。 道路脇を流れていく街灯のように単調に、 けれども確かに誰かの一瞬を照らすような。 そんな''半透明''が存在していてほしい。 僕はどこかの誰かの、オレンジ色の光でありたい。