ちょっと月まで。-約束編 光 -

「すべてを理解する者?」

彼は数学教師の打った文章を読み終わった直後、文章の意味が理解できず、フリーズしていた。
世界から音が消え、この画面の中の文字達がまるで意味の無い図形として彼の脳内を駆け巡っていた。

そして急に雨の音が大きくなり耳をつんざいたと思ったら、悪寒がし、背中から冷たい汗が滝の様に流れた。

カタカタ。

キーボードが鳴った。

「驚かせてすまない。
しかし何をどうしようというわけではない」

画面に新しい文字が打たれた。

教師はまだ何か意味のない話をしている。
それを見て、まるで頭と手が別々の生き物のようだと思った瞬間、ああこの人には本当にバレていると直感した。

彼は急速に冷静さを取り戻し、静かに言葉を発した。

「何故わかったんです」

数学教師はキーボードから手を離し、そして意味のない話をやめた。

周りの雑音は消えて聴こえない。

部屋にいた他の人間達は、スローモーションになり、彼と数学教師だけが、同じ時の流れの中にいた。

数学教師はそっと顔を上げ少し微笑んでからこう答えた。

「私も理解する者だからさ」

コンクリートの壁と窓を隔てて鳴るホワイトノイズに似た雨の音が彼の言葉に心地よいエフェクトをかけていた。
その言葉を聞いた彼は、自分でも不思議なほど落ち着いているなと思っていた。
むしろその答えを聞き体が、心が軽くなった様だった。

ふと外を見ると雨足が弱くなり、遠くの方で雲の切れ間から光が差している。

少し疲れた。もう偽りの自分を演じるのをやめようかと考えた。

この事件のニ週間後、数学教師は学校を辞めた。親の病気の看病の為と聞かされたが嘘だろう。
しかし南方宗介は数学教師が辞める前にある約束を交わしていた。 

三年後にまた会おうと。 


そしてその時世界を変えようと、、

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