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「ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow」はライスである。

「ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow」が公開されてもうすぐ2ヶ月が経とうとしています。めちゃくちゃ面白いので「ラブライブ!サンシャイン!!」や舞台となった「沼津」のことを知らないそこのアナタも是非、劇場に足を運んでみてください! 分かち合おう! この感動を!

……と言ってもいい作品なのでしょうか。

キャストの皆さんも舞台挨拶で「ラブライブ!サンシャイン!! や沼津のことを知らない人にも観てほしい」という類のことを仰っていましたが、少なくともいきなり初手が「ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow」はちょっと勿体無いなというのが私個人の見解です。勧め方の戦略を間違えると、ハマってくれる素養のある方をハメ損ねる可能性がある気がしてならないため、本項ではそのあたりについて語っていこうと思います。主に「ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow」を鑑賞し、「素晴らしい作品だしムビチケ余ってるしラブライブを知らない友人を誘ってみるか」と思っている人向けになります。

……そろそろ手持ちのムビチケが尽きている頃合のような気もしますがそれはさておき。

以下、ネタバレおよび捉え方によってはネガティブな個人的見解も含みますので、まだ鑑賞していない方、お口に合わなさそうな方は、回れ右をして頂いたほうがよいかと思います。

随分と長くなったので要点をまとめると、
・私はこの映画が好きです。
・でも好きだと思えるのはAqoursや沼津を好きだからでは?
・何も知らない人が見て楽しめる映画かどうかは一考の余地があるのでは?
・いきなり連れて行くよりは「楽しむための下地」を作ってあげてからのほうがよいのでは?

という話になります。どうぞ。

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「ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow」(以下、本作)をご覧になったみなさんは一体何を感じたでしょうか。感動したでしょうか。泣いたでしょうか。そうでもなかったでしょうか。私はと言えば要所要所で泣きました。なんなら公式が公開してくれている冒頭7分で既に泣いていました。なぜ泣けたのでしょうか。それは私が沼津の近くに住んでいて、沼津にそれなりの愛着をもっていたからです。「いやそんなことより3年生が……」という意見は受け付けます。たかだか冒頭7分でも10人いれば10通りの心の打たれ方があるのでしょう。それでいて、心打たれたならば、その根底には共通点があるはずです。それは「沼津やAqoursが大好きである」ということです。

これは冒頭7分に限らず全編を通して言えることで、現時点の私の本作に対する評価は「Aqoursや沼津に対する愛着に相関する形で心打たれる作品」です。好きであれば好きであるほど「何度でも観られる」「細かいところに気がつける」「自身の思い入れを投影できる」仕掛けが満載だったように思います。言ってみれば「ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow」はライスであり、これまでみなさんがAqoursと付き合ってきた中で芽生えたそれぞれの感情で、それぞれの好みの味付けをすることによって、一品の料理として完成する作品であるように思うのです。観に行く度に味付けを変えてみるのも楽しみのひとつでしょう。同じ味付けであっても観に行く度に新しい発見があり、噛めば噛むほど味が出ることに気づかされます。故に本作の感想を語り合うときに「だいたい同じような味付けレベルで議論できるか」は注意すべき点のひとつです。Twitterなどで本作に関する噛み合わない議論を見るとだいたいは「ラブライブ!サンシャイン!! への思い入れの度合いや映画を観た回数が違うんだろうな」で解決します。では「ラブライブ!サンシャイン!!」を全く知らない人にとって、本作はどのように映るのでしょうか。

もしも「ラブライブ!サンシャイン!!」を全く知らない友人をいきなり映画館に誘おうとしている人がいるならば、その人に問うてみたいことがあります。それは「ライスがいかに旨いかをちゃんとプレゼンできるのか」ということです。つまりは「あの沼津が」「あのAqoursが」「あの1年生が」「あの2年生が」「あの3年生が」などの劇場版の内容以外の文脈を使わずに、本作の魅力を語ることができるのか、と。例えば「あの場面でキセキヒカルが流れるのがヤバかった」という感想を見かけます。そしてそれには私も完全に同意します。しかし、あの演出をヤバいと感じられるのは「キセキヒカルが代表的な劇中BGMに素晴らしい歌詞を乗せた曲であり、2期最終巻の特典曲として送り込まれた刺客であり、3rdライブツアーの最終地点福岡でサプライズ初披露され、4thライブ東京ドームで生演奏に合わせて披露された名曲である」ことを私たちが知っていて、その体験のいくらかを投影できる――味付けできるからです。初手の人にとっては「あ、新しい挿入歌だ。踊るかな。あ、踊らないのか」くらいで終わってしまうかもしれません。少しばかり寂しい気もしますが、背景情報を持ち合わせていない以上、私たちほどの感動を得ることはしたくてもできないのです。その点「ライスの旨さ」として比較的伝えやすいのはSaint Snow周りでしょう。彼女たちについては劇場版以外の情報量がそこまで多くなく(故に今更出てきたブロッコリー嫌い設定で大盛り上がりできるわけですが)、その情報をうまく劇中内に収めたうえで、起承転結に落とし込んで描いています。初手の人にでも「Saint Snow最高じゃなかった? Believe again最高じゃなかった?」と聞けば高確率で「最高!」と言わせることができるような気がします。いかん。このままでは本作の主役がSaint Snowになってしまう! と思い、慌ててAqoursの劇中での魅力を語ろうとするのですが、1回の観劇で認識できそうな劇中内の情報だけで語りきることは難しく、そもそも主題である「6人のAqoursの門出」が初手の人の心にどれほど響くかもよくわからず、終始「とにかく可愛い」「曲PVがいい」というだけの何だか物足りないプレゼンになってしまいかねません。「この味付けをするとこんなに旨い!」であればいくらでも語れるのに悔しいなぁ……。このように、比較的Aqours慣れしている私ですらプレゼンが難しい「ライスの旨さ」をいきなり初めての人に感じとってもらうのはさらに難しいのではないか。これが私が初手で「ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow」を観せるべきではないとする理由です。私のプレゼン能力が低いだけだったら申し訳ありません。

では、どこまで「ラブライブ!サンシャイン!!」を知ってもらえば本作をそれなりの味付けで楽しむことができるのでしょう。これがなかなか難しい問題で、そのラインを推し量るには、私たちはあまりにも「ラブライブ!サンシャイン!!」を知りすぎて、愛しすぎてしまいました。これは製作スタッフやキャストさえも同じで、愛着を抜きにしっかりと考えたうえで、「ラブライブ!サンシャイン!!」を知らない人に劇場版を勧めておられるのかは若干疑問に思います。一方で、公式では劇場版「ラブライブ!サンシャイン!!」スペシャルサイトを用意しており、この中に含まれるアニメ、楽曲関連の数々の動画から「ラブライブ!サンシャイン!!」のエッセンスを比較的容易に摂取することができます。1月中は無料で全話を見ることもできました。予習復習バッチリです。この手厚さは、裏を返せばやはり制作側も初手で「ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow」を理解することの難しさを認識していたと言えるのかもしれません。「ライスの旨さ」をうまく語れないのであれば、用意されたこのサイトを利用して事前情報をいくらか与えることで、ある程度味付けできる下地を作ってあげるべきだろうと私は考えます。友人をいきなり映画館に連れ込むよりは、まずは「30分でわかる!」シリーズを見せるところから始めたほうが、効果的に「ラブライブ!サンシャイン!!」沼に落とせるのではないでしょうか。

最近、ある芸能人が私の理想の動き方をしてくれました。

ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんです。以降、彼が「ラブライブ!サンシャイン!!」沼にずぶずぶハマって行く様は、Tiwtter等で追っていただければと思います。彼が劇場版を観る前に「一気にアニメを見終わって」くれたことや、映画を観に行くのに「勧めて、好きになった人たち」と行ってくれたことはとても嬉しく思います。もしも彼がアニメより先に映画を観てしまっていたら「誤解」を解くことはできていたのでしょうか。「周りの人」はついてきてくれていたのでしょうか。言ってみれば本項は、そのあたりが気になって仕方ない、という話でした。

余談
本項では本作をライスに例えました。良く言えば人それぞれの味付けで何度でも楽しめるわけで、実際私も何度か楽しんだわけですが、悪く言えば単体の映画作品として扱った場合、どこか味気なく物足りなくも感じてしまったということです。なぜそう感じてしまったかについて、公式パンフレットの監督インタビューの中にヒントを見つけたような気がします。そこで彼は「残った6人を精神的に少し大人にしてあげる、成長させてあげる」「映画だからっていきなり怪獣が出てくるわけでも、なにするわけでもありません」と述べています。確かにいきなり駿河湾から怪獣が現れて沼津の町をはちゃめちゃに壊されても困りますが、怪獣が出てくるくらいのインパクトで物語を動かして、例えば「目に見える形での“6人のAqours”の存続危機」を描くだけでも、単体の映画作品としての盛り上がりを演出できたように思います。しかし監督は「ラブライブ!サンシャイン!!」の世界観に合わせて、敢えてその選択をせず、語弊はありますが、監督の意図したとおりに、どこか味気なく物足りない物語を完成させたのだと私は推察しています。監督の意図通りとあらば、あとはもう好みの問題でしかありません。内容に踏み込んだ私の個人的な感想については個別に酒でも飲みながらゆっくり話すこととしましょう。

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