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【毎週ショートショートnote】「大増殖」「天使のキス」

ある日、寝ている彼のまぶたにキスをしたら彼が二人に分裂した。

彼の飼い猫で試したところ、どうやら私が「天使のキス」と呼ばれるそれをすることで対象が増殖するらしい。まぶた以外では効果がない。

この特技がSNSでバズると、メディアにも取り上げられて「増殖天使」と呼ばれるようになり、私の生活は激変した。人手が足りないと呼ばれれば従業員に天使のキスを。食料が足りないと呼ばれれば家畜に天使のキスを。工業製品を量産したいと呼ばれればまぶたがないとお断りを。様々な事情で呼ばれては様々な生物を増やし続けた。

毎日何回キスしているのか。もう数えるのも嫌になった。このままでは私と私の唇が死んでしまう。私自身を大増殖できたらいいのに。しかしそれは至難の業だ。私の唇は私のまぶたに届かない。鏡の中の私にだって……待てよ、写真の中の私になら。

おそるおそる写真の中の私のまぶたにキスしてみる。すると写真が二枚に分裂した。工業製品も増やせるじゃん。
(410字)


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前回のお題「失恋」「墓地」

以下、今回の本文作成に至るまでのアイディアめも。

アイディアの羅列
大増殖:増える、ワカメ、分裂、
天使のキス:まぶたにキス、

アイディアの組み合わせ
天使が増殖する話:ありがたい天使も増えすぎると迷惑。価値が下がる。
キスをすると増殖する天使の話:その天使がキスをすると対象が増殖する。これは便利とひくて数多。天使は忙殺される。自分を増やせばいいのでは。増やせるか増やせないかでオチ分岐。

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