〈今回の問い〉
紙の本に未来はあるのか。書店はいつかなくなるのか。
こんにちは!bokashiです。
今回は、2023年5月30日に行った、「覆面座談会」の様子をお届けします。
関係者の許諾を得て、登壇者の一人だった ライター・佐藤優子さん(動物ネームは「かもめ」 )によるトークレポートを掲載します。
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という大胆な宣言のもと、2023年5月30日の夜、札幌市中央区のコワーキングスペースbokashiで覆面座談会が開かれました(本イベントは実行委員も登壇者も詳細プロフィールは非公開)。
こういう機会は滅多になく、当日来れなかった人たちも「どんな話が交わされたのか知りたい!」と興味津々。
なんでこんなに儲からないの?口を揃えて「火の車」
話し手の11人は各自、動物ネーム(しゃけ、ぱんだ、さそり…)と「ざっくりした職種」を記載した紙を自分の前に置いた。
同じ「本」業界にいるメンバーなので実は大半が顔見知り。もちろん実行委員側も誰が誰だか把握したうえで、招集をかけている。
とはいえ11名という多人数に加えて、覆面&匿名の縛りもある。
自前のパンダの被り物をした方が「さそり」だったりして、早くも混乱の予感。進行役カジタさんの仕切りに頼るばかりである。
最初の質問は、自己紹介も兼ねた「最近、本買いました?」。
自己紹介が終わると改めて、カジタさんが企画の意図を紹介した。
「仕事ではできない本音を話してもらおうか、となりまして。話しづらいのなら覆面を!という安易な発想で覆面座談会となりました」。
「書店が苦しいのは、取次が途中でガッツリ抜くからですか?」とカジタさんがあおると、
Amazonで売れるより書店で売れた方が取り分がいい
皆で悲痛な実態を共有するなか、意外なトピックも飛び出した。
(後日おすすめの一冊を教えていただいた。それがこちら)
このあと、話題は「本屋は専業でやっていくのが難しい」か「目的もなくふらりと立ち寄って、書店の個性(選書)で買わせる本屋がいい」のか。量か、質か、スピードか。
2022年12月配信の記事によると、全国の書店店舗数は8,642店(前年度は8,789店で147店の減少)。
書店が減り続け、この日の登壇者ですら「ポチって」本を手に入れている現状に、カジタさんがあえての問いかけを投げてきた。
「街から書店がなくなってもよくないですか?」
紙の本には皆、思慕も愛着も感じている。だが一方で、「構造には難あり」と誰もが感じているはずだ。次の質問「出版業界の構造、今のままではダメ?」でその思いが噴出する。
取次が強い配本システム、FAX問題…謎の多い出版業界
日本の取次事情(ほぼ二社独占体制)は非常に独特であり、課題は常にある。
北海道ブックシェアリングが2019年12月に発行した会報誌「ぶっくらぼ」によると、「1000円の本の売上構成は出版社が700円、取次は80円、書店は220円」とある。
契約ごとに細かい違いはあるとしても、これが本に関するステークフォルダーの取り分の目安になる。
だが現代は本を送る郵送費も高くつき、「取次が地方に本を送れなくなる時代の足音も聞こえてきている」との発言も出た。
このあと、出版業界(書店・出版社・取次全て)がいまだにFAXでやりとりをしている「なぜデジタル化できない? FAX問題」でこの日一番盛り上がる。
「メアドがわかれば担当者に直接送れる」「営業はいまだFAXだけど、流通部門はデジタル化ができている」などなど、現場のリアルな声が飛び交った。
皆が使いやすい新しい流通プラットフォームは作れるのだろうか。
ちなみに、ミシマ社の呼びかけで始まったFAXを使わないシン・プラットフォーム「一冊!取引所」の使い勝手の良さはたびたび耳にする。
大手取次に口座を開くことができないひとり本屋さんたちが喜んで使っているようだ。
《次の形の本のありか》を皆で変えていく始まりに
時間があっという間に過ぎていく。最後の質問は「紙の本に未来はある?」。全員が順繰りに答えていく。
本にたずさわる職種は、実はとても多い。この日は残念ながら来られなかったという図書館関係者しかり、教育関係者や装丁デザイナーなどなど…数え出したらキリがない。
だがそうした人たちが立場や所属を超えて話せる機会は、ほぼ皆無に近かったはずだ。
だからこそ、この日のメンバーも実行委員の呼びかけに喜んで応え、「忖度なし」の本音トークで盛り上がった。
覆面&匿名というちょっと芝居がかった設定にも、背中を押された気がする。
こうした前向きな集まりを用意してくれた実行委員の方々に心から感謝を伝えたい。
カジタさんが最後に「ボクから言いたいことは一言です。みんな、仲良くしてください!」と締めくくった。「みんな」とは、自分たちだ。聞きに来てくださったお客様にもそれが伝わったのではないだろうか。
会場名の「ぼかし」とは、農業の発酵を使った肥料生成工程のことを言う。「米糠や鶏糞などの有機物が、微生物により分解・発酵し肥料化して土に還元される」(bokashi公式サイトより)ぼかし肥のように、この場所で人が集い、発酵して、既成概念を問い直し、社会に還元していこうという思いが込められている。
まさに「このままでは危うい」紙の本の未来を議論するのにぴったりの場であったことと、後日bokashiスタッフのお一人がくれた感想の一部をお伝えして、本レポートを終えたい。