見出し画像

手紙:2020年2月12日

メールを拝見して大変驚きました。

  それは、非常事態の中での展覧会開催だったことでしょう。展覧会というのは、やりがいがあるものの、一度決まればそのオープンに向けてただでさえ緊張が募ってきます。

  そういう私も、「青蓮丸、西へ」を道後でオープンさせた時は、とにかく作品を完成させてオープニングは欠席し、道後から近親者の通夜会場へ向かい葬儀を行いました。継承手続きなど一切を代理で行いつつ、80年代巡回展をなんとかこなし、かなりハードな二年間でした。

 ですから、「青蓮丸、西へ」は、道後が終わった頃に、どうしてももう一度ちゃんと展示したかった作品です。東国で一度時空を超えて出現しましたが、旅の途中に皆は新しい何かを発見したのでしょうか。あるいは古の沼地で足を取られてしまっているのでしょうか。カザリドリのリダが、青蓮丸に歌を教えているのかもしれません。

 疲れが出たのでしょうか、昨年は肺炎でひと月ほど自宅静養していまして、あっという間に時間が経ち、作業ができていないのに気づいて、落ち込んでいました。劣化を防ぐために、フィルムをスキャンする作業をしなければいけないのですが、意味が見出せず鬱々と日々を過ごしていました。

 今年は、なぜか長崎出島に青蓮丸を上陸させてみようかなと思い、リサーチに行こうかと思っていたところです。時々関西、アトリエを離れたくなる今日この頃です。美術館でお話して、旅の行方の計画ができれば良いなと思っています。

 気温や陽射し、季節の変わり目などが心身に響いてきます。

 通行許可証を持っていれば、いつでもどこからでも出たり入ったりできる芸術空間の中では、時間の感覚も変わります。美術館で作品を鑑賞している時が一番落ち着くというのも、長年の職業病です。作家によっては人の作品を見ないという人もいらっしゃいますが、私は広い空間で作品を見るのが好きです。

 だから、家に小品を飾ったりという感覚はほとんどありません。アトリエの隅で暮らしているので、いつも朝目覚めるとかきかけの絵と、やりかけのスキャンが目に入ります。

 今日は良いお天気です。フラットどこかへ行きたくなりますが午後から、スキャンの助っ人さんが来るので絵の中で妄想することにいたします。

私も長々ダラダラと雑文を書いてしまいました。
お読みいただき、ありがとうございます。

埼玉の温泉を探してみます。

松井拝

©松井智惠      2022年7月7日 筆

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?