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オオカミ村その十五

北のオオカミたち

 白オオカミ、ロマの後を追って、オオカミ村の皆は北の国にたどり着きました。きらきら光る凍った岩山のふもとです。皆は山を登り始めました。凍った岩を物ともせず、ボジはどんどん駆け上って行きます。ナルミの毛が少しづつ長くなり、ルカはナルミにくっついて歩こうともしません。「なんだって、こんなに冷たいんだよう」と、泣きべそをかいています。「ルカ、猫にはここは向いていないさ」と、ナルミは言いました。「でも、ボジと一緒にいくんだ」と、ナルミの毛の中からひょいと顔をだしましたが、すぐさま隠れました。オオカミ村の皆は、遅れてゆっくりと登っています。こんなところをのぼるのは初めてですから、「ああっ!」と、いう叫び声があちこちで聴こえ、オオカミたちは、ずるずると滑り落ちて行きます。

 「ナルミ、先に白オオカミについて行って。僕は皆を連れてあがるから」と、ボジは駆け下りて行きました。「なんだって、ボジはあんな短い脚なのにせ、どこでもゆけるんだい」と、ルカがいいました。「そうさ、だからボジは一等なんだよ」と、ナルミも凍った岩を駆け上っていきました。ボジが山の下の方に降りると、「一等さん、こんな岩はのぼれねえよ。せっかくここまできたのに」と、オオカミたちが、なげいていました。
 「みんな、あんなに暑くて苦しんで、ようやくここまで来たんだ。もうすこしだよ。気をつけてぼくの後について来て」と、岩の氷を前足ではがしてゆきました。「ほら、ここならいけるだろう」。「さすが一等さんだ!」と、オオカミ村の皆はよろこびました。そして、同じように氷をはがしながら、登って行きました。ボジは一番しんがりにいるオオカミも、うまく登っているのを見てから、また駆け上がって先頭にたちました。

 ナルミは風に吹かれて細かい光がきらめいている中で、ふと歩みを止めました。「一等さん、風が雪をつれてくる」と、ボジに言いました。ボジは、「雪が降るまでに、北のオオカミに会わなければ」と、後ろを振り返ってナルミに言いました。白オオカミロマの姿が小さくなって行きます。ナルミは走り出しました。ボジも走りました。風をきって、岩山を二匹のオオカミとずるっこの猫が駆上がって行きます。白オオカミロマのすぐ近くまで追いついた頃には、雪が降ってきました。あっという間に、雪は風に飛ばされて、オオカミたちのからだに降り積もってきます。「みんな、今から大声を出すよ。地面を大きく動いて登ってくるんだ」と、ボジは大きく叫びました。声が反響して、あちこちの岩が崩れて行きました。崩れた岩の後から土が現れました。「よし、ここを行こう!」と、オオカミ村の皆も駆け上ってきました。「やれやれ、ボジのおかげで岩山までこわれたな。なにせ皆が無事でよかったよ」と、ルカがいいました。オオカミ村の皆は、とうとう北の国に着きました。山の中腹にある北の国のオオカミたちの住む村へと一同は歩みを進めました。

 白オオカミのロマがゆっくり村の中に入って行きます。幾つかの大きな平べったい岩の上に、北の国のオオカミたちはいました。その毛並みは、たいそうふさふさとして、立派な灰色をしていました。「おお、ロマか」と、北の国のオオカミが近づいてきました。「一等さんもお元気そうで、この国はお変わりないようだ」と、白オオカミのロマは答えました。「後ろに大勢のオオカミがいるが、その者たちはどこからきたのだ」。「この者たちは、はるか西のオオカミ村の者たちです。北の平原で見つけました」。「ぼくがこのオオカミ村の一等、ボジといいます」と、後ろからボジが飛び出して、大きな声で言いました。「この白オオカミの一等どのが、僕たちをここまで連れて来てくれたのです」。「ほう、これまた、赤毛の一等とは、珍しい。私は北のオオカミ村の一等、ラガルという。そなたたちは、はるか遠くからきたようだが」。「ラガルさま、僕たちのオオカミ村は、はるか西南にありましたが、ある者の仕業で、燃え尽きてしまいました。それからは」と、ボジは干ばつや、オオカミ狩りのことや、旅の出来事を話しました。立派な銀色のラガルは、ボジの話を、じっと聞いていました。

 「それは、長い旅であったろう。オオカミの世が騒がしくなっていることは、そなたの遠吠えで知っておった。ここは、ボジ殿のオオカミ村の皆には、寒すぎるであろう。北の国の村の近くでしばらく休まれるがよい。ふもとまでの道のりは、そなたたちの足ではむつかしかろう。この北のオオカミ村から続く洞窟からゆくとよい」と、ラガルは頭をボジに向けました。「ありがとうございます、北のオオカミ村の一等さま」と、ボジは頭をラガルにすりつけました。

「ロマも知っているであろう。紫玉が何をしでかすかわからぬので、気をつけるように。村人とわれわれは、はるか昔からともに暮らしておる。食べ物もお互いわかちあうこともあっての」と、ラガルは言いました。「ロマ、もうひとはたらきしてくれるかのう。北の村では、ちょうど獲物が採れたそうだ。お前も腹が満たされるであろう」。「一等さん、おまかせください。このオオカミ村の者たちを無事連れて行きます」。「ロマさん、お願いします」と、ボジは言いました。「洞窟からゆけば、あっという間だ。安心しなさい」と、白オオカミのロマはボジに言いました。

 「この氷の隙間に入って」と、ロマが北のオオカミたちの間を歩いて進みます。ボジたちも、静かについていきました。隙間の奧には、氷の洞窟が輝いています。北のオオカミたちとボジたちは、すりよって挨拶をしました。中は暖かく、オオカミたちは元気に歩き出しました。北の国の一等は、ナルミを見つけて、念入りに身体を寄せました。「弟ナガルの息子よ。お前の受けた苦しみは、必ずとりのぞくことができる。覚えていないかもしれぬが、お前はここで育ったのだ」。ボジは、ナルミとナガルの話を聞いてびっくりしました。銀灰色の毛は、北の国からの贈りものだったのです。ロマは、「さあ、まず村へ」と、オオカミ村の皆と洞窟のはしにある通路にむかいました。「するすると、落ちるんだ」と、ロマは氷の通路を滑りおちていきました。ボジもオオカミ村の皆も、次々と滑ってゆきました。ナルミが最後にすべりおちるのを、ラガルはじっと見つめていました「あの一等ボジは、まだ気がついていない」と、つぶやきました。

 2021年3月18日改訂 2014年1月18日Facebook 初出

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