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コジャレター「味覚について」


 このところ、味気ない食事をしています。右側の奥歯を中心に歯茎が腫れてとても痛く、噛むとたまらなく痛みます。おまけに肩は凝るし、目もかすんできます。歯医者がお盆休みなのでつらい毎日です。

 それでも空腹は必ずやってきます。おなかが空いた→「食べたい」→「食べるととても痛い」という図式の中で、何とか痛む歯に食べ物があたらないよう、左側の歯でそろりそろりと噛むのですが、たまに気を抜いた瞬間に右側へ食べ物が流れ込み、「おうっ!」と突っ伏してしまいます。 何を食べても中途半端な感じがして満足できません。
 味覚について考えてはみたものの、歯痛の最中では、とにかく両方の歯でかたい煎餅をバリバリ食べてみたいという自虐的なイメージしか湧きません。空腹に身を任せて目の前の食べ物を猛スピードで噛み砕いてみたいという欲求にもかられます。
 こうなってくると、「味覚」というものが恋しくなってきます。

©松井智惠     1994 8月22日筆 
ぴあ関西版 No.290 1994年9月20日号221P 

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