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私はシルバー

  自分の仕事に密接な展覧会の展示や表現物に、一番反応するのかなと、この数日で改めて気づいた。仕事のようで遊びのようで、一般の会社勤務の感覚でもなくずっとプロジェクトは終わらない。今日は連休の最終日だから、近くで散歩のできるところへ行って帰りにスーパーで日用品を買っておこうと、車で15分ほどの長居公園へ出かける。

 長居公園の中には、30年前に建てられた大阪市自然博物館がある。
https://www.omnh.jp/
調べてみると、夏休み企画の『恐竜博2023』が開催されている。美術と違うものを少し見たくなり、大阪市の自然博物館に行くことにした。
https://dino2023.exhibit.jp/

 予想通り『恐竜博2023』は、小さい子供と一緒の家族連れで賑わっている。まあ、本当にこんな大きな生き物が地上の主だった時代があったんだわと、自分の遠い過去がここに繋がっているのかと、背中がゾクゾクしていた。草食系か肉食系か、陸、海、空のどこに住んでいたのだろう、なかなか時空が遠すぎて想像できない。骨のレプリカをバックに珍しく自撮りしてみた。これも、鏡にあらず反転したただの画像だなどと、次の作品の内容がふと重なる。
 出口のショップで子供たちが、恐竜のフィギュアを握りしめて買って欲しいとねだる光景はとても微笑ましい。T-シャツやぬいぐるみよりも、触ってざらっと刺刺した、かっこいいフィギュアに心を奪われるのは当たり前だ。

 そのまま、別棟の大阪市立自然博物館の常設展示を観る。展示物の昆虫や蝶の標本はじっと見ていると見飽きない。午後に一匹のトンボが窓から見えたとする。それがどんな種類のものなのか分からなくても、家ではそれだけで秋の空を思うのだ。夏には、植木鉢に咲いた花に大きな黒い蝶が一匹現れただけで、あたりの雰囲気は一変する。ファンタジックでSFの世界なのかと思ってしまうほどに、標本の昆虫の色や大きさは様々で、精緻な生き物の姿に見入ってしまう。
 ネットでいくらでも画像を拾える時代だけれども、羽の薄さまでは分からない。暑さの中で、寒さの中ではかない夢を見るのは人間だけで、生物は与えられた環境の中で決まった通りに移動し、定住する。人間のいう、「自由」「不自由」とは、一体何なんだろう。と、また余計なことが頭をよぎる。

 話を少し戻すと、博物館と言うにはあまりに哀しい古びた内部に驚いた。経年劣で退色した写真がそのまま展示してあったり、植物生態のレプリカの精度は30年前のままで、煤けてしまっている。
 監視の人もいないので、子供たちは展示ケースをたたいて走り回る。全員がそうでもないけれども、一人、そのような行動を取ればやっちゃうのが子供だ。展示ケースは子供のべたべた 手形で不透明になっている。

 「そんなにドンドンケースを叩いたらあかん」
気づいたら、声が出ていた。子供たちは叩くのをやめて、後ろにいたお母さんの「みんな叩いたらあかんよ」と言う声に向かって移動した。はっきり分かったことは、この施設に対しての予算が圧倒的に少ないこと。それを含めて研究者や学芸員が非常に少なく、大阪市がこの施設を大切にしてこなかったことだ。ディスプレイ基準でなされた設備による展示で、博物館の研究成果をちゃんと反映できるとは思えない。

 大阪万博がうまくいっていない理由を見た気がする。訪れる人に勧めることができる博物展示を、日常レベルで今まで育ててこなかったまま大阪は老齢化したこと。国際基準の博覧会をするには、もはや基礎体力が不足していいることに気づかなかった。私もこの施設に足を運んでいなかったから、哀しいかな、シルバーだ。

 それなりにゆったりと頭の散歩もして、炊飯器を開けると現実に戻る夕暮れ。

 ©️松井智惠           2023年9月18日


*企画展の展示内容に対して大人当日1800円、高・大学生1500円、小・中学生700円の価格は高い。鑑賞施設を利用しても、駐車場でサービスがないのは、どうかと思う。


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