記憶
ここはかつて海岸線沿いに浜茄子の花が自生する様な自然が美しいところであったらしい。
今では見る影もない。海岸沿いの土手もコンクリートで覆われた堤防に様変わりしている。
私は昔から事あるごとに海を眺めに行く。
堤防や砂浜に座って寄せては返す波の動きをずっと見ていた。そうすると心が落ち着くのだ。
13年前、
海が全てを奪い去った後は、しばらく海に行くことが出来なかった。私は運良く何も奪われなかった側の人間なので、それは工事等で物理的に海に行けなかったというわけ。
それでも私の周りには、大事な人や物をなくしてしまった人達がたくさんいた。
高校時代の隣のクラスの女の子。何度か話したことがある程度の間柄。彼女は家族を亡くしたらしい。涙を浮かべてテレビに訴える場面を見た。
私には、
"何も失わなくて良かった"と思う浅ましさがあった。
あれから時は流れる。
彼女はどうなっただろうか。
知る由もない。知るつもりもないが。
あの日と海を思って
あの日奪った 海もまた産む 生命たち
毎日巡る 生と死の営み
あの日から今日まで海は変わらず寄せては返す。
それを眺める私は何か変われただろうか。
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