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場所のあいだ

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詩集Ⅰ
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2021年11月の記事一覧

なにもない森

なにもない森

トンネルを抜けるとそこは、なにもない森だった。なにもない、けれども明白な森が、そこにはあった。

ちからなく、すぐにへし折れてしまいそうな儚さで、草木が群棲していた。ぼくは、祈るように彼らを撫でる。彼らはぼくの存在によって揺れている。でも、そこには沈黙だけがあって、そのことがなによりもよかった。ぼくはまだ、彼らと語らうための言葉を持っていないから。

ここには、信頼のやわらかな光が降っていた。この

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終わりの海

終わりの海

子どもたちは踊っていた。甲高い声はどこまでも響き渡り、太陽は、ぼくたちが永らえるためだけの鐘を鳴らし続けていた。光と熱とが飽和してゆく中、砂浜は、歓喜とはどんなものだったかを教えてくれる。空気をたっぷりと含んだ細波は、少年のくるぶしを濡らし、また、彼らの母のもとへと帰ってゆく。

純粋さそのもののような渇望の上で、泡沫というものについて、表現し尽くすためにあったあの踊り。きっとこれは、約束だった。

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