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【掌編小説】黄色と黒色と

「ねぇパパ、あのシマシマはなあに?」

 保育園からの帰り道で息子が指さしたのは、工事現場の周囲に表示されている黄色と黒色の縞模様だった。

「なんだか虎さんの模様みたい。ねぇねぇパパ、あれは何?」

「ああ、あれか。確かに楓太の大好きな虎さんみたいな柄だな。あれはな、ここは危ないぞ、気をつけろよって言う意味なんだよ」

 工事現場の警戒表示について、息子にはまだ難しいかなと思いながら意味の説明をしたのだが、思いの外大きく彼は頷いたのだった。

「わかったぁ。だから虎さんも黄色と黒色のシマシマなんだ」

「え、虎のか? 工事現場のでなくてか?」

「うん。虎さんの黄色と黒色の模様も、ボクは危ないぞぉ、近くに来るとガオォってしちゃうぞ、気をつけろよぉっていうことなんでしょ。ねっ、パパ」

 目をキラキラと輝かせながら私を見上げる楓太。

「お、おおう。そうだな、うん。そうだ。急にガオウッってされたら、みんなびっくりしちゃうからな。気をつけてねって、そういう意味だな、きっと」

 私の答えに満足したのか、駐車場に停めてあった車に乗り込んだ後もずっと、楓太は「ガオオオッ、ボクは危ないぞぉ」と小さな声で繰り返し続けていた。

(了)


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