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#02 発信モードの話し言葉

(3)「発信モードの話し言葉」を音読で身につける

 音読を通じて身につけたいのは、実社会で相手に分かりやすく伝えられる「発信モードの話し言葉」です。それは、「書き言葉」と「カジュアルな話し言葉」の中間に位置する「第3の日本語」と捉えることもできます。

 英語学習では、音読と並んで暗唱も有効と言われますが、暗記すること自体が目的になると発信の意識がおろそかになります。それでも、内容を覚えてしまうくらいに読みの集中を高めれば効果があります。徹底的に準備して、本番は発信するだけという安心感が得られるなら暗唱も役に立ちます。

 実際、暗唱と音読はセットと言っても過言ではありません。一度も音読せずに暗唱するのは難しいのではないでしょうか。声に出して読むと覚えやすいからです。話の中に「タグ」を意図的に貼り付けることで記憶に留めるイメージを持つこと、それは聞き手にとっても同じです。いつまでも印象に残る話には何らかの「タグ付け」がされていることが多いはずです。

 学校の授業を思い出すので音読は嫌いという人もいるかも知れませんが、発信という明確な目標に向かって続ける音読は、前向きで生産的な活動です。音読は集中力を高めます。文字を目で追いながら声に出して読むので、黙読より集中しやすく、気を散らす原因となるマルチタスクの防止につながります。また、音読によって、発信力だけでなく情報を整理する力も向上します。情報が溢れている時代、必要な情報を効率的に選別した上で、分かりやすい言葉と伝え方の工夫で整理して発信することが求められます。発信のプロセスを踏むことで頭の中も整理されるのです。

 音読のメリットはそれだけではありません。適切な音読トレーニングを続ければ、自分が話をする時間の感覚を秒単位で養うことができるようになります。15秒、30秒あればどのくらい話せるか。こうした肌感覚を持っておけば、自分の時間を効率的に使えるだけでなく、他人の貴重な時間を無駄に奪わずに済みます。

(4)音読は書き言葉から話し言葉へのブリッジング

 音読の目標は、相手に伝わるように読むことです。そのためには、読みの不自然さを徹底的に排除する必要があります。「話すように読む」のです。

 なぜ、多くの人は文章を読むと不自然になるのでしょうか。普段は生き生きと話す子供が、音読や発表になるとなぜ固まってしまうのでしょうか。普段のカジュアルな話し言葉ではないから?間違いを恐れているから?それとも、他人が聞いていることを意識しすぎるからでしょうか?

 書き言葉を十分に消化し、自分自身の言葉として話せる人材は貴重です。そういう人は、話す目的と伝えるべきメッセージを明確に定めています。一方で、どんなに話術が優れた人でも、常に新たな表現を生み出せるわけではないので、大抵は既存のパターンの組み合わせで話しています。そこで身につけたいのが、事前に準備された内容をアドリブのように読んで(暗唱して)伝えるスキルです。

 不自然な読み方をすれば、メッセージを伝える機会を逃してしまいます。自然さは意図的に作り出す必要があるのです。日常の話し言葉と全く同じように話せば、実務的な発信の場ではカジュアル過ぎて聞いてもらえません。そこで、声の張りやトーン、言葉遣い、表情等で処理(細工)を施しますが、その細工を聞き手に感じさせないような自然な話し方(読み方)が必要となります。また、事前にどれだけ準備を重ねても、相手に伝える気持ちと熱意を失ってはいけません。

(5)読みと話しのギャップを埋めるトレーニング

 先ほどお伝えした通り、音読とは、書き言葉を十分に消化した上で、話し言葉に変換して伝わるように読む作業です。普段の会話だと自然に話せるのに、文章を読むと途端に不自然になってはもったいないですね。特に、ビジネス等での重要な発信ほど読んで伝えなければならない機会が多いため、発信にふさわしい読みのスキルを獲得することが大切です。

 ビジネスでの報告やスピーチ、プレゼン等で使えるのは、書き言葉ではなく「発信モードの話し言葉」であり、日常の話し言葉とは異なります。これを自在に使いこなすことができれば、仕事の成果も上がるでしょう。一方で、カジュアルな話し言葉の延長でしか話せない人や、書き言葉をそのまま棒読みしてしまう人は、意図したメッセージを相手に伝えられず、自分も相手もストレスが溜まります。音読によって発信のリハーサルを続けることで、こうしたストレスを軽減できるのです。

 小学校低学年の子供たちは、教科書を一語一語音声化する作業(音読)を重ねながら、少しずつ黙読の方法を学んでいきます。大人はどうでしょう。もちろん黙読はできますが、書き言葉の理解で凝り固まっているので、意識と読み方を「発信モードの話し言葉」に変換しながら音読する必要があります。その際、忘れてはいけないのは、「音読を発信につなげる」という意識です。「黙読によるインプット(知識の習得)→音読→本番の発信」というプロセスを地道に繰り返すことで、「相手に伝える力」は確実に高まっていくのです。

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