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めんどくさがりなあなたへ

 ちょっと長くなるけれど、あなたが女性なら聞いてほしい話がある。
 きっと少しためになるから。
 

その日は7月の下旬で、真夏の日差しが肌を突き刺すような猛暑日。屋外に出た瞬間、真っ昼間に会社を中抜けしたのは間違えだと思った。
それでも私は、一週間後の予定と生理をどうしても被らせたくなくて、足早に婦人科へ向かっていた。なぜなら私の生理は気分屋だから。生理不順の上、生理痛がひどいときもあれば、軽いときもある。重いときは、家から一歩も出たくなくなる。今まで奇跡的に、予定とあまり被ることがなかったけれど、そのときに限ってはぴったり当たりそうだった。​

院内は予想通り混み合っていた。予約をしても、診察室に呼ばれるまで2時間。 
医療現場はいつでも忙しい。分かってはいるものの、これが来院を敬遠してしまっていた理由だった。
その日は土曜日のお昼だったから、恐らく一番混む時間帯。私の想像していた待合時間は優に超え、時間有給を使わざる負えないことが確定した。土曜出勤の会社を憎らしく思った。

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おじいちゃんの畑の向日葵

どうせ来たのだから、生理不順のことを看護師さんに相談すると、彼女にがん検診を薦められた。
しばらく来ることもないだろうから、ちょうどいい機会だと思った。
今日も数十の診察をしてきたであろう婦人科医が、淡々とした様子でエコーを見ていく。
エコーは数年前のがん検診以来だったけれど、久しぶりに来てもやっぱり苦手だと思った。

婦人科医「生理不順は最近のこと?」
私   「いえ、高校卒業してから結構不順です。」
婦人科医「うーん。右の卵巣に腫瘍できているよ。」

言われた直後、理解するまでに時間がかかり、「そうですか。」となんともない返事をした。けれど5秒も経てば、次第に体中の血流が波打ち、心臓の鼓動が早くなって行くのを感じた。頭の中が真っ白になった。

婦人科医「まあ良性だと思うけどね。手術は必要かもしれない。水が溜まっているのかな~。それか脂の塊かもね。なんか質問ある?」

え、どういうことですか。いつごろからあったんですか。どのくらい大きいんですか。すぐ治るんですか。どんな病気の可能性があるのですか。よく起こることなんですか。

聞きたいことは山ほどあった。でも怖くて一つも聞けなかった。右の卵巣の腫瘍に聞き覚えがあったから。私の母も全く同じ場所に腫瘍ができ、二十歳になる前に手術をした。そして長いこと不妊症に悩み、苦労して私を出産した。
もしかしたら私も同じ道を辿るのではないか。
そう思うと怖くてたまらなかった。
目的は「がん検診」だったけれど、そのときの私にとって、腫瘍が良性か悪性かなんてどうでもよくて、将来子供が産めるか産めないか、それだけが気がかりだった。 
診察が終わり、一人になると急激な焦燥感に襲われ、涙が止まらなくなった。
不謹慎な話だけれど、子供を授かれないと言われるくらいなら、がんを宣告された方がましだと思ってしまった自分もいた。それくらい、将来子供をもつことが私にとっては夢だったのだ。
もっと早く病院へ行けばよかった。めんどうくさがりの私は、あれが過ぎたら行こう、あの用事が終わったら行こうと先延ばしに先延ばしを重ねていた。
ピルを貰いにこなければ、当分病院には行かなかったと思う。

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多嚢胞性卵巣症候群のイメージ

その後、私は排卵障害の一つである「多のう胞性卵巣症候群(PCOS)」であることが分かった。 腫瘍については経過観察。妊娠を希望するまではピルの服用をすることが決定した。 
追記:その後手術することになり、ピルの服用は術後からになった。
思いのほか、PCOSだという診断は全くショックじゃなかった。
前回の診察結果を聞くまでの間、少しでも不安の種を減らしたくて、ありとあらゆることをネットサーフィンしていたからだ。調べ尽くした結果、私はPCOSなのではないかと予想はしていた。  
それに診断を受けたことで、今までの症状(謎のイライラ、PMS、ニキビ、毛深さ)を肯定されたような気がした。
あのときのやる気のなさも、あのときの元彼との喧嘩も、あのとき自分をうつ病じゃないかと疑ったことも、全て腑に落ちたのだ。

それと同時に、後悔もした。脱毛やサプリ、高価なコスメにスキンケア。
多大なお金と時間を無駄にした。
もちろん適度に運動をしたり、食事を見直したり、それなりに健康管理をしてきた。健康診断で再検査になったこともなかった。
でも自分の体がどこか悪いのかもしれないと、思ったことがないと言えば嘘になる。
それなのに、その事実に向き合わず、蔑ろにしてしまっていた。美容には惜しみなくお金を使うくせに、病院にお金を費やすことが嫌だった。
その結果、不妊症になり得る病気を長年見逃してしまった。

だから私みたいにめんどくさがりな全ての女性に伝えたい。
年齢なんて関係ない。自分の健康を過信しないでほしい。
ちょっとしたことで病院に行くのは、全く大げさなんかじゃない。
高いコスメを買う前に、エステや脱毛にお金をかける前に、健康にお金をかけよう。
健康診断はもちろん、子宮がん検診、乳がん検診には毎年行くこと。
1年に一度でいいから、自分の体と向き合ってほしい。
外面を磨く前に、今自分の体を知ることは何よりも大切。
未来の健康な自分に投資できるのは、今の自分しかいないのだから。

めんどくさがりな23才より  

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