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試し読み:『シンプル・スケッチライフ』イントロダクション

2024年9月にBNNより刊行された『シンプル・スケッチライフ 気軽に始める大人のためのアーバンスケッチ』より、イントロダクションの「スケッチと僕」「スケッチについて」の中の一部と、本書に掲載されているイラストをご紹介します。

本書は台湾で人気のスケッチ講師による、大人でも気軽に自由にスケッチが描けるようになる初心者向けの解説書です。
「絵を描く」という一歩が踏み出せない初心者の方や、日常に追われ、絵を描くことから遠ざかってしまった大人に向けた気軽に自由な気持ちでスケッチを描き始められるコツをレクチャーしています。

p.168より 台南の旭峰号

「スケッチと僕」より

若いころ、絵を描くのが好きだった僕は、国立台湾芸専(※現在の国立台湾芸術大学)西洋画科で学んでいました。しかし、基礎をコツコツと練習するのがどうも苦手で、油絵や水彩画の世界にはうまく馴染めませんでした。そこで逃げ道として見つけたのが「スケッチ」でした。この気楽な描き方に魅了された僕は、暇を見つけてはハガキサイズのスケッチブックを手にして、いろんな場所へ出かけては絵を描くようになりました。兵役に就くころまで、そんなことをしていました。

その後、社会に出るとインターネットが普及してきたため、僕はデザインの仕事に転向し、20年ほどこの仕事を続けました。仕事の道具は鉛筆からマウスやWacomに変わり、スケッチの習慣も途切れてしまいました。やはり気ままに手を動かして絵を描くあの感覚が懐かしくなることもあったのですが、どうしても鉛筆を手に取るモチベーションが湧いてこなかったのです。

そんな感じで2014年になったころ、僕はフェイスブックで偶然、「スケッチ台北サークル」のページを見つけました。そこには、台湾師範大学デザイン所長の張柏舟教授や余思瑩さんの万年筆画や水彩画の作品が次々とアップされていて、僕は何度も雷に打たれたような衝撃を受けました。そこでその年の暮れに一念発起して、いくつかのスケッチを描き、フェイスブックにアッ
プしてみました。すると、スケッチ愛好家の友人とたくさん知り合うことができ、互いに励まし合うようになり、スケッチが僕の生活に欠かせない趣味になっていきました。

デザインは理詰めで行う仕事ですが、絵は感性にゆだねる部分が大きく、芸術の道から遠く離れてしまった僕は、もう絵を描くことはないだろうと思っていました。でも、スケッチは絵を描く喜びをまた僕に教えてくれま
した。画面の切り取り方や構成、色彩の配置など、実はデザインの仕事と共通する部分も多いのです。そんなこんなで再び絵筆を取るようになって、4 年目になります。この度は、悦知文化社(原書の出版社)のみなさまからこのようなすばらしい機会をいただき、ありがたく思っています。この本は編集者の玲宜さんと共に、簡単で実用的なスケッチ技法をまとめたものです。みなさまにも、日常をスケッチする喜びを感じていただければ嬉しいです。

スケッチは堅苦しいものではなく、もっと自由なものです。ルールは自分で決めればよく、絵の良し悪しなんて気にする必要はありません。子供のころ、落書きをしていたあの感覚を覚えていますか? 似ているかどうか、美しいかどうかなんて考えず、ただ純粋に絵の世界に没頭していましたよね。僕は今もサラリーマンとして働いているため、この本に載せた絵は、余暇の細切れ時間をかき集めて描いた作品ばかりです。みなさまも空いた時間を使って、ぜひ何枚か描いてみてください。この本を一通り読んでしばらく練習すれば、きっと「もっと描き続けたい!」という気持ちになるはずです。

p.87より
浅草寺の雷門を見下ろして(日本・東京)
Ben Li 氏の写真作品から 〈ガラスペン/透明水彩絵具〉
p.188より
松山空港 〈万年筆/透明水彩絵具〉

「スケッチについて」より

いにしえの時代から、人は石の壁に動物や物語の絵を描いていました。近代になっても、カメラが発明されるより前は、画家は目に映る景色や物、光や影をスケッチし、それをアトリエに持ち帰って組み合わせ、絵画のモチーフとしていました。芸術家に限らず、デザイナーやカメラマン、建築士も、アイデアの段階で概念図や略図をペンでざっくり描くことがよくありますが、これもスケッチの一種だといえるでしょう。

正確性や職業上のニーズはさておき、手で絵を描くことは、字を書くのと同じように、誰もが一度は経験したことがあるはずです。子どものころ、僕たちはクレヨンやカラーペンで自由に絵を描き、その絵のストーリーに浸っていました。絵の出来栄えなんて気にせず、ただ描きたいように描いていたのです。でも大人になり社会に順応するにつれて、落書きをしなくなってしまいました。似ているかどうか、美しいかどうか、遠近法が正しいかといったことが気になると、絵を描く意欲がくじかれてしまいます。まるで、技術や時間、先生の指導がないと描けないかのように感じるのです。

ICTが生み出した高速消費時代に突入し、何ごとも簡便さやスピードが求められる昨今、スケッチは脚光を浴びています。ペン1本と紙1枚あればOKというシンプルさが魅力で、目に映る景色や物を線で描けばよく、ルールや完成の基準もありません。僕たちのような多忙なサラリーマンにぴったりの余暇の趣味といえましょう。

水彩画や油絵が魅力的な物語や文章に例えられるなら、スケッチはさしずめ短い詩のようなものです。ユニークな物を記録したり、何気ない風景や、心に残った雰囲気などをさらりと描くだけです。正確さや質感を追及するために、むやみに線を重ねることはしません。スケッチには多くの表現技法がありますが、この本では「線でスケッチし、淡彩透明水彩絵具で色を付ける」方法を主に紹介します。

アウトラインで対象物の形を写し取り、線の味わいを深めた上で、時間があれば淡彩をほどこし、透明水彩ならではの軽やかさや明るさを表現すれば、より趣のある魅力的な絵に仕上がることでしょう

p.89より
塗料缶 〈ガラスペン/透明水彩絵具〉
p.99より
リージェント通りの様子(X 字の構図)(イギリス・ロンドン)
〈書法尖万年筆/透明水彩絵具〉

このあと本書では、スケッチの基本道具から、きれいな線の描き方、色ののせ方、画面のデザインの仕方と進んでいきます。
具体例を挙げた描き方解説に入る前に、スケッチをするための準備や心構えについてもしっかり描かれているのがこの本の特徴です。読むと身構えていた気持ちが楽になれるような、気軽に始めてみようかな?と思えるコツがたくさん書かれています。
もちろん、後半では掲載されているイラストの具体的な描き方もしっかり解説していますので、ぜひ気軽にお手に取っていただいて、この本がスケッチを始めるキッカケになれば嬉しいです。

目次より
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