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試し読み:『演奏するプログラミング、ライブコーディングの思想と実践』 はじめに

12月21日に刊行した書籍『演奏するプログラミング、ライブコーディングの思想と実践 ―Show Us Your Screens』をご紹介します。

本書で取り組む「ライブコーディング」とはどんなものか、まずは以下の映像をご覧ください。

コードを書きながら、リアルタイムに音のパターンを生成していきます(ここではTidalCyclesという言語を使用しています)。生成されるリズムやメロディにたゆたいながら、さらに波のようにパターンを紡いでいくような体験です。

アルゴリズミックな音楽を志向している方、Processingやp5.js、openFrameworksなどによるコード表現をちょっとでも知っている方であれば、楽しみながら自らの創造性を拡げていけるはずです。

著者は、メディアアート系プログラミングを学ぶ者なら必ず参照するyoppa.orgの運営者、田所 淳さん。クリエイティブコーダーであり教育者、という生き方の第一人者です。そんな田所さんによるアツいメッセージ、ぜひ読んでみてください。[村田]

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はじめに

ほとんどの場合、プログラマーという職業は裏方の仕事で、表に出てくることはありません。そうした裏方の人々による成果であるアプリケーションやシステムのソースコードも、多くの製品/プロダクトにおいて外部から秘匿され、開発に関わった関係者しかその内部を見ることはできません。一般の利用者にとって、ソースコードはブラックボックス化された謎の存在であり、それを生み出しているプログラマーたちも得体の知れない存在です。

外部から秘匿されることで、コードは神格化され、魔法のような存在として奉られるようなります。ブラックボックス化した箱は、人々から多額の金を吸い上げ、資本家にとっての価値を生み出しながらどんどん巨大化していきます。プログラマーも、そうした巨大なブラックボックスに奉仕する存在として、コードという秘技を駆使して支える存在となっていきます。

さらに現代は、コードがプログラマーからも秘匿されつつあります。巨大なアプリケーションやIT システムは一人のプログラマーが全て把握することはもはや不可能であり、ユニット化されたコードの一部を書き換える要員としてしか関われません。将来はAIがコーディングを行い、人間のプログラマーは必要なくなると予想する人たちもいます。

現代のプログラマーは、もしかしたら、産業革命直前の職人のような立場なのかもしれません。職人が弟子に受け継いできた秘技は、巨大な資本に吸収され、工場労働者のように単純な流れ作業をする存在となっていくかもしれません。プログラムは巨大化したIT システムの一部であり、個人の所有が困難になっていきます。

1810年代初頭のイギリスで、産業革命にともなう機械使用の普及により失業の怖れを感じた手工業者・労働者たちが、機械を破壊する運動を起こしました。ラッダイト運動です。この運動、は後の労働運動の先駆けとなりました。

もう一度、個人の手にコードを取り戻しましょう。
それが、ライブコーディングです。

コーディングするという行為自体を楽しみましょう。個人の楽しみとして、楽器を弾くように、詩を書いたり編み物をするように、コーディングするという活動自体を楽しむのです。ライブコーディングを通して、初めて自分で書いたプログラムが動いた時の感動を思い出しましょう。コーディングは仕事のためにいやいや書くものではなく、未知の世界へと足を踏み入れるエキサイティングな行為だったはずです。そして、その喜びを周囲の人たちにも伝えましょう。

ライブコーディングは、コーディングの喜びをストレートに表現する手段としてとても優れた方法です。コードをリアルタイムに音や映像に変換してパフォーマンスすることで、普段コードに触れない人たちにも、プログラミングはこんなに楽しい行為なのだ、クールな表現活動なのだということを、とてもわかりやすく、そして魅力的に伝えることが可能です。

ライブコーディングの世界はオープンに開かれています。オープンソースのアプリケーションをインストールするだけで、誰でもライブコーディングを始められます。ライブコーディングのコミュニティは、互いに緩やかに連携しながら国際的に拡がっています。誰でも受け入れる、とても自由なカルチャーです。

あなたも、本書を踏み台にして、世界にはばたくライブコーダーになりましょう。

2018年12月
田所 淳

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Amazonページはこちら。Kindle版(固定レイアウト形式)もあります。


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