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ボジョレーヌーボーと戦略的パブリシティ

今年のボジョレーヌーボーは例年より高値らしいですね。『輸入元のサントリーの輸入分は2.1万ケースで、前年より58%減った。ロシアのウクライナ侵攻や原料高で、同社は店頭価格が前年比1.4〜2.2倍になると見込む。750ミリリットルで3,850〜5,500円、375ミリリットルで3,080円と想定する(日経新聞10月19日)』。さすがにこの値段は高いと感じてしまう。「今年、ボジョレーはナシだな」と思っていたら、中目黒のスーパーマーケットで去年のボジョレーヌーボーがまだ店頭に並んでいました。1,500円くらいだったと思います。なんだか哀れで「僕が飲んでやろうか」という気が一瞬起きたのは事実です。

ボジョレーヌーボーはその話題性も後押しして11月第三週の木曜日に店頭に並ぶのが恒例になっています。しかし元々はフランスでワイン商が今年のぶどうの出来具合や、ワインの味を推し量り、数年後の買い付けをどうするかを決めるリサーチ行為でした。情報を得ることが目的なので日時も一定だし色々な銘柄を飲み比べするわけです。しかしそのリサーチがあまりにも楽しく、商業性があったため、ワイン商のみならず一般消費者にも体験してもらえるイベント・ビジネスに仕立て上げたのが今のボジョレーヌーボーです。そういう意味ではマーケティング・プロダクトであり、パブリシティでワインを売るためのコミュニケーション・フックです。味自体は正直、僕はあまり美味しいとは思わない。しかし新酒や旬の好きな日本人にとっては、味とは別の価値があって、クリスマスのような季節行事として消費しているのが実態でしょう。

2003年に「戦略的パブリシティ」という本を出版しました。のちに注目されるようになった戦略PRの原形です。19年前、当時としては非常に新しい概念だったと思います。そのなかで「キャスティング」という手法を紹介しました。まずボジョレーヌーボーのようなコミュニケーション・フック(商品)を「コミュニケーション目的で」開発します。そして売場での露出を高め「売れている実態感」を作ります。最後にマスコミ各社にニュースリリースを出し、取り上げられることで「世の中的な売れている感」「認知」を短期間に低コストで生み出すものです。「売れているようだ」という信ぴょう性は顧客に製品を手に取らせる効果があります。その結果、更に売れるようになるという好循環を生み出すのです。キャスティングと呼んだのは「製品」「売場」「パブリシティ」を1つの戦略セットとみなし、それぞれを全体最適のなかでキャスティングするからです。「売れているという信ぴょう性」は新ブランドを誕生させるチカラもあります。企業が自ら喧伝するのではなくマスコミのような「第三者の口」が信ぴょう性を作り出すのです。残念なのはこの考え方が広まるに従ってメディア側がこれをビジネス(ペイド・パブリシティ)にしてしまったことでしょう。企業から莫大な金額を取ってテレビ番組で取り上げるものや書籍の企画出版などです。また「やらせ」「サクラ」の問題も噴出しました。いまではテレビや雑誌などよりもSNSが重要なメディアになっているように見受けられますが、このパブリシティ戦略の考え方は同じです。