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芹澤朋也、いい加減にしろ【すずめの戸締り感想】

先日すずめの戸締りを観てきましたので感想です。

冒頭あらすじ(ネタバレ注意)


[c]2022「すずめの戸締まり」製作委員会

九州の静かな町で暮らす17歳の少女、岩戸鈴芽がある日「扉を探してるんだ」という長髪イケメンの大学生、宗像草太と出会い、彼を追って迷い込んだ山中の廃墟で見つけたのは古ぼけた──

なにかに引き寄せられるように扉に手を伸ばすすずめ。扉の先には満天の星空が浮かび、幻想的な風景が広がっていた。思わずすずめは足を踏み入れるも、扉の先は変わらず廃墟の中。
しかし扉を開くと確実に"別の世界"がある。
すずめは強烈にその景色に惹かれるが…
ふと目をやると、扉の側には謎の杭のような形をした"石"。
思わず石を手に取って見たすずめ…が、なんと瞬く間に石は猫の姿に変わってしまい、どこかに行ってしまった。
不思議な体験をしたすずめ。どうしようもないので学校へ行き、授業を受けるが、ふと窓の外を見ると山の中からおぞましい"巨大なミミズ"のような"何か"が吹き出している。
そしてスマホからはけたたましく鳴り響く"緊急地震速報"。
揺れる地面、外にはおぞましいミミズのような何か。

──あの扉があった場所だ──

嫌な予感を感じたすずめは学校を飛び出し、扉があった場所へと駆ける。

扉のあった場所へ戻るとあの扉からミミズのような何かが吹き出しており、あの青年、草太が必死に扉を押さえていた。

とうとう草太一人の力では抑えきれず、弾き飛ばされてしまう。
すると吹き出したミミズのような何かはゆっくりと地面へ倒れ込み、地面を大きく揺らす。
程なくして再び鳴り響く緊急地震速報。
地震はミミズのような何かが地面に倒れこむことで起きているようだった。

再び扉を閉じようと扉に向かって走り出す草太。扉を閉じようと力を込めるも、先ほどの衝撃で腕に傷を負ってしまい、十分な力を出せない。
たまらず草太の下にすずめは駆けつける。

草太「なぜ!?」

すずめ「閉じなきゃいけないんでしょ!」

二人の力で徐々に閉じていく扉。
なにやら呪文のような言葉を唱え始める草太。

すると突然扉に鍵穴のようなものが浮かび上がり、草太は首から下げていた"鍵"を手に叫ぶ。

「お返し申す!」

鍵をかけられた扉からはもうミミズのような何かは出てこなかった──

草太はすずめに"扉"と自身のことについて説明する。

""は日本全国に存在しており、一度開けば"災い"というあのミミズのような何かが出てきてしまい、地震などの災害を起こすため定期的に閉じなければいけないということ。
そして自分は"閉じ師"と呼ばれる"扉"を閉じる役割を果たしてきた家系の末裔であり、扉を閉じるため全国を旅していることを。

そうすずめに説明する草太。
あまりに現実離れした内容に唖然とするすずめ。
すると二人の前に突如謎の猫が現れる。
よく見ると、あの時廃墟の扉があった場所で石から変化したあの"猫"ではないか。

「すずめ、すき」
「おまえは、じゃま」

そう突然言い放った猫。

次の瞬間、草太はなんと、椅子の姿に変えられてしまっていた。

その椅子はすずめが幼いころに使っていた脚が1本欠けた小さな手作りの椅子。

逃げる猫を追いかける椅子になった草太。
それを追いかけるすずめ。

そして日本各地で次々と開き始めた"扉"。
不思議な扉と不思議な猫を追いかけて、九州から四国、関西、東京と、"なりゆき"だけで日本全国を行脚することになる「すずめの戸締り」。

旅の先々で出会う人との絆に助けられながら進んだ先で、すずめが目にしたものとは?

すずめが直面することになる、ある過去とは?

そんなお話です。

震災はエンターテインメントに昇華できるか?

ここから先は個人的な感想です。
以下、ネタバレ全開注意!

[c]2022「すずめの戸締まり」製作委員会

はい、ぶっちゃけこの映画、2011年3月11日に発生し、津波に原発事故と未曾有の大被害を生んだ東日本大震災を映画のテーマに盛り込んだ作品です。"震災そのもの"と言っていいかもしれません。

劇中ですずめはかつて幼少の頃、岩手県宮古市に在住していました。そして東日本大震災に被災したことにより、母親を亡くしています
元々すずめの母親は離婚によりシングルマザーの家庭であったため、震災後は母親の妹である叔母に引き取られて九州の地で育てられました。
つまりすずめは震災孤児だったんですね。

現実では東日本大震災は自然現象により引き起こされたものですが、劇中ではが開いたことにより、"災い"と呼ばれるクソデカいミミズがぶっ倒れたため東日本大震災が引き起こされてしまった…という設定だったようです。

劇中でもすずめの過去を振り返るため、すずめが幼少期に書いていた日記帳を読み返すシーンにて、2011年3月11日と明記されたページが真っ黒に塗りつぶされた演出がなされています。

個人的にはこの演出、悪い意味で鳥肌が立ちました。
薄々と視聴者が気づくような仕掛けは用意されていたとはいえ、ここまでハッキリと震災を意識させる演出には驚きと不快感、恐怖などが入り混じった感情を覚えたからです。

映画とはエンターテイメントです。娯楽です。

震災とは"悲劇"ではなく、リアルです。
たくさん人が死にました。
家族を亡くした人もたくさんいました。
津波や原発事故の影響で住み慣れた故郷を離れた人も山ほどいます。

僕自身直接被災したわけではないのですが、だからこそ、エンターテインメントとして純粋に楽しんでいいのかわからなくなりました

楽しむ人がいるのは否定しませんし、できません。
ただただ、わからなくなりました。

映画を全編観終わった後も、面白かったと思えたし、挑戦的な姿勢は感じたのですが、胸にしこりのようなものを残していました。
いまだにどう受け止めていいのか、これを書いている今もわかりません。

それすらも、新海誠監督の狙いなのかもしれませんが。

芹澤朋也という、男


[c]2022「すずめの戸締まり」製作委員会

劇中に神木隆之介演じる芹澤朋也という、草太の友人が登場する。

この芹澤という男、草太の大学の友人(ちなみに教育学部だ)として登場し、「草太に貸した2万を返して欲しい」という理由だけで自前のオープンカーにすずめと、叔母のつばめを乗せて、東京からすずめの生家である岩手県まで二人を連れて行く。(実際は芹澤が草太に金を借りていた)

しかしまあこの芹澤という男、沼みが強い。
なんならちょっとえっちだ。

LGBTQに寛容となってきた世の中ではあるが、僕自身は女性を恋愛対象とするヘテロセクシャルである。
…しかし芹澤という男、ちょっとえっちなのだ。

そもそも劇中で草太と芹澤は大学の教育学部の同期であり、共に教員試験を控えていたのだが、草太は椅子になってしまっていたので教員試験を受けることができなかった。
それを気にかけた芹澤が草太を尋ねたところに椅子になった草太を連れたすずめがいて…というのが劇中での出会いなのだが、もうそれだけでエモーショナルい。

見た目無茶苦茶チャラそうなのに、友だち思いで、お人よしで、昭和の歌謡曲が好きで、喫煙者

──オタクはわかりやすいギャップに弱い悲しい生き物なのだ。
好きにならないはずがない。

喫煙者大好き!!!


話は少し逸れるが、僕はタバコが嫌いだ。
現実での僕は呼吸領域に少し詳しい医療従事者であるため、色々ハイリスクとなる喫煙者には心の中だけで態度が少し厳しくなる。

でも!!!


フィクションの喫煙者は大好き!!!!!

[c]「BLACK LAGOON」-広江礼威-


学生時代にブラックラグーンという漫画の作中にあったシガーキスを観て以来、性癖を捻じ曲げられてしまった身としては、フィクションの喫煙者は大好きなのだ。
全員肺が真っ黒でCPFE発症してる状態でもタバコ吸ってて欲しい。

フィクションの中において健康を省みない喫煙は、生命の儚さやそのキャラの刹那性を表現する演出としてピッタリなのだ。

儚さは、美しさなんだ。

神木隆之介という、男

芹澤という男、演じるはあの神木隆之介くんである。
新海誠作品では「君の名は」の主人公の一人、立花瀧を演じ、「天気の子」に続いて三作連続で新海誠作品に出演している。

「君の名は」における立花瀧と芹澤朋也、そのキャラやイメージは真逆といってもいい。

芹澤のやや粗雑な印象を受ける話し方からは、あの「神木くん」が演じてると、初見では気づかなかったのではないだろうか。(当然僕もエンドロールまで気づかなかった)

あー!お客様!困ります!お客様!!!!
好き〜〜〜〜〜〜!!!!

何度も言うが、オタクはわかりやすいギャップに弱い悲しい生き物なのだ。

振り返れば千と千尋の神隠しの坊から始まり、ハウルの動く城のマルクル、サマーウォーズの健二くん、そしてシン・エヴァの碇シンジ…

かわいらしい子どもの声から繊細な青年の役を中心に声を充ててきた神木くんが演じる、だらしないチャラ男。ギャップたまらん。

止まらない男、いや漢。神木隆之介──

おわりに

震災をテーマにしたり、神木くんの新たな一面を知れたりする映画、「すずめの戸締り」。

個人的には複雑な感情を抱きつつも、色々印象に残ったということは名作たる所以だったのではないかなと。

ただ震災の被災者にとっては下手したらPTSDを刺激されかねない、非常にセンシティブな内容です。そういうのに弱い方は控えた方がいいかもしれませんね。

ただ、もう一度くらい観てもいいかな…観ようかな…と思える内容でした。






芹澤くんを観るために。


もっとタバコ吸え、芹澤。

[c]2022「すずめの戸締まり」製作委員会

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