嘉村賢州x小山龍介「イノベーションは一人から始まるー日本企業でイノベーションがおこらない本当の理由を探る」BMIAリスキリング・セッション(1)
【日時】2023年4月26日 19:00〜22:00
【会場】ビジョンセンター品川
【登壇者】嘉村賢州・小山龍介
小山龍介(以下、小山) 足元の悪いなか、お越しいただきありがとうございます。ぜひ楽しいイベントにしていきたいと思うんですけれども、今回、初回ということもあって、このリスキリング・セッションの趣旨を、少しだけ冒頭に簡単にお話しします。
最近リスキリングってもう一気に広がってますよね。
嘉村賢州(以下、嘉村) はい。
小山 首相も、リスキリングと言ってたりしますし。昔は、大学までのスキルで、あとは現場で学ぶ、身につけるのが当たり前だったのが、少し現場から離れたり、学校も戻ったり、新たな次のステップへ行くために、スキルを身につけるリスキリングというのが流行っていて、それにあやかって、こういう名前にしました。
このBMIAという組織には、コンサルタントの育成のためのいろんなプログラムがあるんですけども、セミナーやって終わりじゃなくて、もっと学ぶ機会を提供できたらということで、今回こういうシリーズを始めました。(まだオープンにはなっていないんですけど、次の4回ほど、スケジュールを調整しているところで、毎月提供できたらなと思っているところです。
それで、第一回は、もう、嘉村賢州さんにお願いしたい! と。
嘉村 記念すべき第一回に選んでいただいて光栄です。
小山 ということで、今回、ちょうど『すべては1人から始まる』という本が、ちょうどっていうか、少し前ですかね、
嘉村 去年一〇月ですね。
小山 出版されたということもありまして、お越しいただきました。
小山「すべては1人から始まる」、われわれはビジネスモデルイノベーション協会と名乗っていますし、イノベーションもまた「1人」から始まるんじゃないかということで、この「1人から始まる」「ソースになる」ことについてのお話をしていただきます。
イノベーションを起こすときは、たった「1人」
小山 イノベーションを起こすときには、ある人物が、しかも「1人」なんですよね。
嘉村 たったひとりですね。
小山 本を読んでいただくとわかるんですけれども、もう徹底的に、二人じゃない、「1人」なんだ、と。共同創業者がいてもAさん、Bさんどっちがソースかみたいな議論が、何ページにも渡って議論されているということで、徹底的に「1人」っていうことを言い続けている本でもあるんですね。
本当に個人的な話になるんですけれども、私はどちらかというと、いままでの職歴もそうなんですけれど、あるリーダーがいて、そのリーダーがやりたいということを、聞き取って動く、サポート役を得意としてたんですよ。
嘉村 はい。
小山 「私、参謀役が得意なんです」と思ってたんです。ある人がこういうことやりたいって言ったときに、それを実現するために、自分もそれがいいなと思ったらコミットする。それが、もう七、八年ぐらい前なんですけども、ある人から「いや、小山さんは違いますよ」って言われたんですよ。
嘉村 おぉ。どういうことですか。
小山 もっと自分でイニシアチブをとってやっていく人ですよって言われた、七年前ぐらいの言葉がいまだにすごく記憶に残ってるんですよ。「サポート役じゃなくて、あなたはソースになる人だ」って、そのときはぜんぜんピンと来なかったんですけども、最近ちょっとわかってきた感じがするんです。自分がソースになると、なにか起こるし、逆にいうと、そうならない限りは、自分からなにかが生まれるってことはない、始まるってことはないな、と。個人的にもそれを実感しているところがあり、今日はちょっと、賢州さんにカウンセリングを……、
嘉村 いいですね。はい。
小山 そういうところも聞きたいなと思ってます。
とはいえ、まずは、ソース原理。もともと、嘉村賢州さんといえば、「ティール組織」ということでもあるので、これを絡めてということですかね。
嘉村 そうですね。両方の観点からお話できればなと思ってます。
嘉村 今日のテーマ、日本企業でイノベーションが起こらない理由を、探っていく。ティール組織と、ソース原理の観点からお話していければなと思いますが、まずは簡単に自己紹介だけサラッとさせていただきます。
嘉村賢州といいます。気軽に、賢州くんとか、賢州さんとか、賢州とか呼んでいただければなと思っております。毎回、自己紹介するとき言うんですけど、兄の名前が、豪州といいます。父親がオーストラリア好きというだけで、兄に豪州という名前がついて、次に弟が生まれたときにどうしようと悩んだ末に(豪州ってすごい名前ですからね)、弟に州だけ残して賢州という……
小山 欧州とはいかなかったですね(笑)。
嘉村 オーストラリア好きですからね。他の国にならなくてよかったなと。国の情勢によって、いじめられる可能性がありますからね。なのでどこの国でもないんですけども、唯一無二だと思うので覚えていただければなと思います。
地域づくりから始まった
嘉村 いまはティール組織の人とかソース原理の人っていわれてはいるんですけども、もともとのバックグラウンドは地域づくりだったんです。大学は京都で、一度東京に就職したんですけども、京都の町がすごい好きすぎて、なんか東京にいたくないなと思って、戻りました。
学生時代、京都で過ごしてたんですけども、ほとんどの学生が東京に出ていくんですね。やっぱり仕事をする場所としては、東京のほうがおもしろいぞというふうになりがちなところがあって、もっと魅力的な京都にしたいなって思ったんです。ただ京都は、どうしてもしがらみがすごく多かったりしますし、なかなかチャンスがない。京都はイノベーティブな町になりきれてない。そう感じて、地域づくり、まちづくりをしようと。方法論としては大規模対話っていうのをやってたんです。「京都市未来まちづくり100人委員会」というのをやらせていただいてたんですけども、毎月土曜日に三時間半ぐらいですね、京都市民が一四八人集まって、
小山 それは行政からの?
嘉村 そうです。京都市の肝いり事業としてやってました。若い感性で、京都のしがらみを越えていってほしいということで、二七、二八歳のときに責任者をやらせていただきました。
小山 どんな立場なんですか。
嘉村 事務局長兼ファシリテーターです。下は一〇代、上は七〇代 だったかな、京都市民が一堂に会して喧々諤々議論していくんですが、これがまた難しくて。一筋縄ではいかないなかで、紛争解決の技術であったりとか、大規模ダイアログって一〇〇人ぐらいでどう対話するのかっていう技術を、海外の知見を研究しながら実行するなかで、ある程度一定のかたち、成果を得ることができたかなと思っています。
そのときにある方に、「紛争状態って、地域でもそうかもしれないですが、企業でもそうですよ」と言われたんですね。M&Aで吸収合併した親会社と子会社があったときに、本当はシナジーを産んで、より創造的になるためにくっついたのに、いつまでたっても憎しみあってるだけだ、と。これを創造的に変えたいといったときに、賢州さんがやってた大規模ダイアログの方法が生きてくるかもしれないから、企業分野でもやってみませんかって誘われて、そこから組織変革ファシリテーターに少しずつ動いていきました。
大規模ダイアログを上場企業さんとか中小ベンチャー、いろんなところでさせていただくと、対話ってやっぱり力があって、いままで、縦割りの組織のなかであまり関わらなかった人が一堂に会して対話していくと、同じような問題意識を持ってたとか、この会社もったいないよねっていう感じで、組織のなかで同じような志を持ってるメンバーと出会い始める。そうすると、いわゆるチェンジエージェントが現れてくるんですね。変えようという人たちが。
小山 はい。
嘉村 それがすごく美しい光景で、それで、組織変革の仕事もすごく楽しいな、と。
ヒエラルキーの壁
小山 地域と企業で、違いはありますか。
嘉村 そうですね。ありますね。地域のよさ、難しさ。企業のよさ、難しさはありますね。地域の場合は、その地域を選んだわけでもないっていう……
小山 なるほど。
嘉村 企業の場合、目的に集ってるわけなので、話が早いですよね。
地域活動に参加しない人は、ただ単にそこが駅に近い(から住んでいる)とか、そういう人たちでコミュニティを形成して話し合わないといけないから、地域の場合はそこが難しいです。逆にいうと、企業の場合はやっぱり縦割りで、お金の関係で、というか、稼ぐために来てるっていうような人たちの集まりにもなってしまうので、その難しさもあります。両方ありますね。
小山 なんとなく、ぱっと聞いたら、企業のほうがチェンジエージェントが出やすいのかなと感じました。地域のほうは「住んでるだけです」という感じで、出にくいのかな、とか。
嘉村 そうですね。そういう「住んでるだけです」っていう人を変えるのはそうとう難しいんですけども、チェンジエージェントという意味では何名かいるかな。ただ、チェンジエージェントが、それ以外の人たちを巻き込むのは非常に難しいと思いますね。
小山 なるほど。
嘉村 会社は、なにかしらうまく話せれば。一応その会社を選んで来てるメンバーなので、
小山 命令系統もね
嘉村 はっきりしてますからね。
小山 なるほど。ソースと関連してくるのは、やっぱりそのチェンジエージェントの存在にもつながってくるんですか?
嘉村 まさに。そのなかでチェンジエージェントがこの会社を変えたい、そして仲間と対話で出会うなかで、立ち上がっていく風景がすごく美しいなって思う反面、ここで邪魔するのが、それこそ、ヒエラルキーなわけです。
なにかしら変えようと思って現場の人たちが立ち上がってなにかを起こしたときに、「余計なことしなくていいんだ」って言うのは、だいたい上の存在なわけですね。「そんなことはやらなくていいんだ」と。「計画通りやってればいいんだ」っていうようなことであったりとか。
あるいは、同じような立場の人たちが、がんばってる人を斜めに見るっていうのもやっぱり企業の特徴ですね。社会でも「意識高い系」って言われるような、なにかしらまじめに取り組んでる人っていうのを、ネガティブに見る人って絶対いますよね。組織のなかでもやっぱそれはたくさんありますね。出る杭は打たれるという文化があるような感じがしますね。
ティール組織との出会い
嘉村「人類は組織のつくり方を間違えたんじゃないか」っていう、すごく大きな問いが私のなかにあるんですよ。携帯電話とかスマートフォンとか、テクノロジーっていうのは失敗しながらも、ボタン式からスマートフォンって、まったく違うもの、すごい大変化を生み出すじゃないですか。ああいうことが生まれているのに、組織活動は軍隊式の上意下達の形態からあんまり進化してない感じがして、それをゼロベースで考えてみたいなっていうときに、ティール組織に出会ったんです。英語のタイトルがReinventeling Organization、組織を再発明しよう、と。一回、ゼロベースで、組織のあり方を見直してみませんかという、このすごく分厚い本の、なにに感動したかっていうと、事例がたくさんあったことです。
小山 はい、そうですね。
嘉村 机上の空論をいうんじゃなくて、世界中にいままでのやり方と根本的に塗り替えた組織が、ポコポコポコポコ生まれてるっていうことにすごく希望を感じて、これが世界を二〇年照らしそうだな、これは学んでみたいって海外に飛び出して、いろいろ学ばせていただいて、そして日本にも紹介したのが、もう七年前ぐらいかな。
そのなかでだんだんと、組織変革ファシリテーターってところから、ティール組織をはじめとした進化型組織、まったく違う系統の組織論というものを研究して普及していくっていう活動をしていきました。
ティール組織を補う「ソース原理」
嘉村 そのながれのなかで、最近、ティール組織のさらにちょっとだけ先というか、ちょっと違う概念なんですけど、ティール組織を補う、「ソース原理」というおもしろい概念と出会いまして、それに関する翻訳出版もさせていただきました。[編集注:前出『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』英治出版 (2022/10/26)]
小山 あとでおっしゃることを先取りしてしまうかもしれませんが、私が、ソース原理にびびっと来たのは、オーガナイゼーションじゃない、オーガナイジングが常に動的に行われ続けてるんだというところ。ちょっと先を急いじゃう感じになるんですけども、『ティール組織』の著者も、もしソース原理のことを先に知ってたら、ぜひ入れたかったっていう話も本のなかにも書かれています。
かたちだけつくれば生命が生まれるということであれば、タンパク質をいろいろ組み合わせると、命が動き始めるはずなのに、実際にはそうならないんですよね。骨つくって筋肉つくって、ナントカつくって、ってやっても命にはならない。生命的には受精っていうのがあって、受精卵ができてそこから生まれると。
だからソースっていうのは生命のメタファーでいえば、やっぱり受精卵の話で、受精卵がないと、どんなにかたちだけ細胞膜をつくったとしても動き始めないでしょっていう、そういうことなのかなと思ったんです。
嘉村 まさにそうですね。アイデアとかビジョンっていうのは、よく受胎するっていうんですが、女性性のなかに男性性が受胎することによって、アイデアとか物事が始まるっていう、いわゆる生命的なプロセスをすごく大事にしています。
組織からではなく、個人から
嘉村 だけど、私たちは、箱である組織からつくろうとしている。それでソース原理はみなさんに抵抗感があるのかもしれないですが。本当は、みなさん一人ひとり、あらゆる人が人生のソース役であるはずが、組織からつくるので、みんな自分のかけがえのない人生を組織に従属させすぎている。箱から始めるのは本当に見当違いだっていうのは強い主張で、おもしろいところです。
小山 そうですね。新規事業の場合も、イノベーションの部署をつくって、そこに人を当て込んでいる。それで、死んだ魚の目をしてる人たちがいっぱいいるみたいなことになりがちなので、
嘉村 そうなんです。箱、しくみからだとね。
小山 日本企業でイノベーションを起こすためには、逆の発想が必要ですよね。その人がどう輝くか、ソースのほうから組織を照らすと、そのときにはオーガナイジングっていう動詞だから、それこそそれに対するスキルがあったり、下世話な言い方をすれば、テクニックがあったり、プロセスがあったり。本のなかでけっこうこと細かに説明がある。
嘉村 かなり大事なキーワードです。オーガナイゼーションじゃなくて、オーガナイジングするところを取り戻そう、と。そもそも創造的活動というのは、オーガナイジングするはずだったのに、私たちはオーガナイゼーションから始めちゃってるぞっていうのは、一大キーワードなのでそこに注目しながら聞いていただければいいんじゃないかなと思います。
(2)に続く
嘉村賢州
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi 代表理事
東京工業大学リーダーシップ教育院 特任准教授
令三社取締役
「ティール組織(英治出版)」解説者
コクリ! プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)
京都市未来まちづくり100人委員会 元運営事務局長
集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外を問わず研究を続けている。実践現場は、まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わず展開し、ファシリテーターとして年に100回以上のワークショップを行っている。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、今に至る。2022年10月に英治出版より『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』を翻訳出版。
小山龍介
一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)代表理事
株式会社ブルームコンセプト 代表取締役 CEO, Bloom Concept, Inc.
名古屋商科大学大学院ビジネススクール 准教授 Associate Professor, NUCB Business School
FORTHイノベーション・メソッド公認ファシリテーター
京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。卒業後は、大手企業のキャンペーンサイトを統括、2006年からは松竹株式会社新規事業プロデューサーとして歌舞伎をテーマに新規事業を立ち上げた。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、現職。翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』に基づくビジネスモデル構築ワークショップを実施、多くの企業で新商品、新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。インプロヴィゼーション(即興劇)と組み合わせたコンセプト開発メソッドの普及にも取り組んでいる。
ビジネス、哲学、芸術など人間の幅を感じさせる、エネルギーあふれる講演会、自分自身の知性を呼び覚ます開発型体験セミナーは好評を博す。そのテーマは創造的思考法(小山式)、時間管理術、勉強術、整理術と多岐に渡り、大手企業の企業内研修としても継続的に取り入れられている。
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