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ビジネスモデル思考とリーダーシップ

代表理事 小山龍介

ビジネスモデル全体を理解する能力は、今やもっとも重要なビジネススキルのひとつである。これまでは、たとえば新規事業創出に関わる人が学ぶべきスキルというような、特定のビジネスパーソンに欠かせないものと認識されていたように思う。しかし今や、誰もが身につけるべき、汎用的なスキルとなっている。

なぜならば、ビジネスモデル理解のスキルは、次にあげるようなさまざまな能力の基盤、オペレーションシステム(OS)となっているからである。ビジネスモデルOS に紐づく能力について、いくつか列挙してみよう。


  1. 戦略的思考:
    ビジネスモデルを理解することは、組織の目標を達成するための戦略を理解し、考えることを可能にする。これは、ビジネスを成功させるために不可欠なスキルである。

  2. 意思決定能力:
    ビジネスモデルを理解することは、効果的な意思決定に直結する。市場の動向、競争環境、資源の制約など、ビジネスのさまざまな面を理解して、手段を選択できるようになるからだ。

  3. 問題解決能力
    組織が直面する問題は、しばしばそのビジネスモデルに起源を持つ。したがって、ビジネスモデルを理解することは、問題の根源を特定し、解決策を見つけるために必要である。

  4. 革新的な発想
    ビジネスモデルの理解は、新たなアイデアやビジネスの可能性を発見するための視点を提供する。これは、製品イノベーションにとどまらない、革新的なビジネスモデルを開発し、市場で競争優位を保つために重要である。

  5. リーダーシップ
    リーダーは、組織のビジョンを共有し、戦略を実行するための道筋を示す責任を持つ。そのためには、ビジネスモデルの全体像を理解し、それを他のメンバーに伝える能力が求められる。


従来は、ロジカルシンキングがこのOSの役割を担っていた。MECE(漏れなくダブりなく)という原理原則は、ある意味でビジネスモデル・キャンバスの網羅性にもつながってくる。しかしたとえていうなら、ロジカルシンキングはあくまで演算手法を定義するようなものであり、さまざまな要素を関連づけていくようなオペレーションまではカバーしていなかった。上記の能力のうち、たとえばリーダーシップに関していえば、ロジカルシンキングだけでは、OSとしての役割を果たすことができないことは自明だろう。

ビジネスモデル・キャンバス(BMC)

ロジカルシンキングは常に、AIでいうところのフレーム問題を抱えている。フレーム問題とは、問題を解決するためにあらかじめ問題の範囲(フレーム)を設定すると、そのフレーム外の情報を無視してしまうというAIの限界のことである。これはAIならずとも、人でも起こりうる。経営管理で使われる数字にとらわれてしまい、数字に現れない要素を軽視してしまうことなどは、その一例だろう。

ビジネスモデル思考は、たとえばビジネスモデル・キャンバスがそうであるように、ビジネス全体を網羅的に扱えるような構成要素をあらかじめ設定する一方で、そこには定量、定性、さまざまな要素を入れることができる。非常に柔軟な思考の枠組みなのである。

その柔軟性を理解するために、ビジネスモデル思考にもとづくリーダーシップのありたかについて、列挙してみよう。


  1. ビジョンと戦略の開発
    リーダーとしての重要な役割の一つは、ビジョンと戦略の設定である。ビジネスモデルを理解することで、リーダーは自社のポジショニング、競争優位性、市場動向、利益生成の機構などを明確に把握することができる。これにより、具体的で適切なビジョンと戦略を作り出すことができる。

  2. チームへの説明とコミュニケーション
    リーダーは組織のビジョンと戦略を他のメンバーに伝え、共有する役割も果たす。ビジネスモデルを理解していることで、リーダーはどのようにしてビジョンが実現可能であるか、なぜ特定の戦略が選ばれたのかを明確に説明することができる。これは、チームの理解とモチベーションを高め、全体としての実行力を向上させることにつながる。

  3. リスク管理
    ビジネスモデルの理解はリーダーシップにおけるリスク管理の視点でも重要だ。ビジネスモデルを理解していると、組織が直面する可能性のあるリスクを早期に認識し、適切な対策を講じることが可能となる。これは、例えば、変化する市場の動向や競争状況、または内部の運営やプロセスに潜む問題などを含む。

  4. ビジネス成長
    リーダーとして、組織の成長と成功を達成するためにビジネスモデルを見つけ出し、その機会を最大限に活用する必要がある。これは新しい市場への進出、新製品の開発、あるいはパートナーシップや提携の機会など、成長の道筋を見つけ出すことを可能にする。

  5. 組織文化の形成
    最後に、ビジネスモデルを理解することは、リーダーが組織文化を形成するうえでも重要な役割を果たす。リーダーは、ビジネスモデルの理解をもとに、ビジョン、価値、行動規範などを通じて組織文化を定義する。これは組織のメンバーが目標に向かって一致団結するために重要な要素となる。


ここで指摘しているように、ビジョンやモチベーションアップ、パートナーシップや組織文化の形成など、さまざまな領域にビジネスモデルが関連している。ビジネスモデル思考は、複雑な社会やビジネスというものを見るためのフレームであるが、一方でそのフレームを通じてみることによって、ぼんやりと見ていたものがくっきり、高解像度でたちあらわれてくる、そんなフレームでもある。

ビジネスモデルイノベーション協会は、こうしたビジネススキルの基本OSとしてのビジネスモデル思考の普及啓発を進めている。まだ道のりは長いが、着実に前に進んでいる実感を持っている。

小山龍介

株式会社ブルームコンセプト 代表取締役 CEO, Bloom Concept, Inc.
名古屋商科大学大学院ビジネススクール 准教授 Associate Professor, NUCB Business School
FORTHイノベーション・メソッド公認ファシリテーター

『Business Model Generation』を翻訳。独自の視点で著名企業のビジネスモデルを分析、解説するワークショップほか、企業の新規事業構築・新商品開発のコンサルティング、地域での起業支援を行う。

京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。卒業後は、大手企業のキャンペーンサイトを統括、2006年からは松竹株式会社新規事業プロデューサーとして歌舞伎をテーマに新規事業を立ち上げた。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、現職。

翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』に基づくビジネスモデル構築ワークショップを実施、多くの企業で新商品、新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。インプロヴィゼーション(即興劇)と組み合わせたコンセプト開発メソッドの普及にも取り組んでいる。

ビジネス、哲学、芸術など人間の幅を感じさせる、エネルギーあふれる講演会、自分自身の知性を呼び覚ます開発型体験セミナーは好評を博す。そのテーマは創造的思考法(小山式)、時間管理術、勉強術、整理術と多岐に渡り、大手企業の企業内研修としても継続的に取り入れられている。


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