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VUCA時代における直感の力 - ロジカルシンキングを補完する直感的思考

BMIA代表理事 小山龍介

現代のビジネス環境は、VUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)という要素によって特徴づけられている。これらの要素は、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性を表しており、こうした状況下においては、ロジカルシンキングによる意思決定だけでは、限界があるのだ。
ここでは、その限界とは何か、そしてそれを克服するために直感的思考がどのように活用できるのか見ていきたい。

直感は、われわれが無意識のうちに情報を処理し、素早く判断を下す能力である。直感は、新たな情報に対する理解を促進し、新しいフレームの形成を助ける。直感的な判断は、情報のオーバーロードを処理したり、複雑なパターンを把握したり、感情的な要素を考慮に入れたりする点で、ロジカルシンキングを補完するのである。以下、その特徴について説明しよう。

  1. 高速な決定
    直感は情報を素早く処理し、迅速な判断を可能にする。これは、特にタイムリーな決定が求められる状況では重要である。ロジカルな思考過程は時間を必要とすることが多いため、直感がこの点で補完するのである。

  2. 情報のオーバーロード対策
    現代のビジネス環境では、大量の情報が常に利用可能で、すべてを論理的に処理するのは困難だ。直感は、この情報のオーバーロードを処理するための効率的な道具となる。多くの情報のなかから重要なものを、短時間のうちに見分けることが可能となるのである。

  3. 未知のパターンの認識
    直感は経験から学び、さらに未知のパターンを推論する認識する能力を持っている。これにより、複雑な状況や曖昧な情報から洞察を得ることができる。複雑な状況における全体像を短時間のうちに把握し、ロジカルシンキングでは見落とされがちなパターンを捉えることができるのだ。

  4. 感情的な要素
    ビジネスの決定はしばしば感情的な要素を含むため、すべてをロジカルシンキングで処理するのは困難だ。直感は感情や価値観を理解し、それらを意思決定に統合するのに役立つ。たとえば経済学では、つねに論理的な行動を行うという経済人仮説を前提とした議論が行われてきた。行動経済学はそれを補完するものとして研究が進められている。直感は、こうした感情的で非合理的な行動を把握することに長けている。

  5. フレーム問題の回避
    経営者や意思決定者は通常、ある特定の「フレーム」または視点から問題を見て、そのフレーム内でロジカルに思考する。しかし、VUCA環境では、フレーム外から想定外の出来事が頻発する。このような想定外の出来事に対処するためには、フレームの拡大や変更、さらにはフレーム自体を超越する視点が求められる。この過程では、直感的な思考が大きな役割を果たす。直感は、ロジカルな分析が困難な新たな情報に対する理解を促進し、新しいフレームの形成を助けることができるのだ。

しかし、直感だけに頼ると、誤った判断やバイアスの影響を受けるリスクもあるため、ロジカルシンキングと組み合わせることが重要だ。ロジカルシンキングは、事実に基づき、情報を慎重に分析するが、直感は瞬時に情報を処理し、迅速な反応を可能にする。この組み合わせが、VUCA環境における迅速で適切な意思決定につながるのである。

こうしたロジカルシンキングと直感的思考の関係は、囲碁やチェスのような戦略ゲームにおける選手の思考プロセスにたとえることができるだろう。選手はルールや過去のゲームから導き出されるロジカルな戦略を持っている一方で、新たな局面や予測不能な相手の動きに対しては直感を頼りに行動を決定する。

重要なのはこのバランスであり、自己意識と自己調整が求められる。日本のさまざまな思考的実践の原型となっている禅などでは、自我を離れ、自他を非分離な状態にすることによってこの自己意識や自己調整を図ってきた。禅問答は、ロジカルシンキングへの執着を強制的にキャンセルして、その人が本来持っていた直感的思考を取り戻すプロセスである。
単なる過去の経験から推論する勘ではなく、自身を取り巻く外的環境の急激な変化を感じ取りながら、膨大な無意識の領域の思考を活用して行う直感的思考は、VUCAの時代にこそ重要になってくるのである。

小山龍介

株式会社ブルームコンセプト 代表取締役 CEO, Bloom Concept, Inc.
名古屋商科大学大学院ビジネススクール 准教授 Associate Professor, NUCB Business School
FORTHイノベーション・メソッド公認ファシリテーター

『Business Model Generation』を翻訳。独自の視点で著名企業のビジネスモデルを分析、解説するワークショップほか、企業の新規事業構築・新商品開発のコンサルティング、地域での起業支援を行う。

京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。卒業後は、大手企業のキャンペーンサイトを統括、2006年からは松竹株式会社新規事業プロデューサーとして歌舞伎をテーマに新規事業を立ち上げた。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、現職。

翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』に基づくビジネスモデル構築ワークショップを実施、多くの企業で新商品、新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。インプロヴィゼーション(即興劇)と組み合わせたコンセプト開発メソッドの普及にも取り組んでいる。

ビジネス、哲学、芸術など人間の幅を感じさせる、エネルギーあふれる講演会、自分自身の知性を呼び覚ます開発型体験セミナーは好評を博す。そのテーマは創造的思考法(小山式)、時間管理術、勉強術、整理術と多岐に渡り、大手企業の企業内研修としても継続的に取り入れられている。





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