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ジャニーズのビジネスモデル転換は可能か

ジャニー喜多川さんのあとを受けて若手の育成に取り組んでいた滝沢秀明さんがジャニーズ事務所を退社することになった。ジュリー社長との確執などさまざまな憶測を呼んでいる。

また同じタイミングで、King & Princeからの3名の脱退も発表になった。理由は海外展開への意見の相違があったとのことだが、これもまた同じようなタイミングで海外デビューしたTravis Japanが米ビルボードの「Global Excluding US」で5位を飾ることになった。

これらのできごとは根底でつながっている。ジャニーズ事務所が直面しているのは、ビジネスモデル転換という問題だ。

海外展開という課題

これまで、ジャニー喜多川さんのプロデュース能力で次々に時代を代表するアイドルグループを輩出してきたジャニーズ事務所だが、残念ながらそのファン層は、海外、特に欧米圏に広がることはなかった。

日本のテレビ局での露出によりカジュアルなファンを増やしつつ、彼らをコアファンへと誘導することによって盤石のビジネスモデルを築いてきたのが、ジャニーズ事務所のこれまでのビジネスモデルであった。

ジャニーズ事務所のビジネスモデル

しかし、国内のマーケットも成長余地に限界がでてきた。テレビ局の力も徐々にインターネットにとって替わられ、それまでインターネットを目の敵にしてタレント写真一枚もつかうことを禁じていたジャニーズ事務所も方針転換を余儀なくされた。

そんな中、韓国アイドルが大きく世界で躍進した。特にBTSは、誰も疑うことのない世界的アイドルへと成長した。ジャニーズのタレントがこのことに無関心でいられるはずがない。どうしたら海外展開できるだろうか。日本のテレビの未来が明るいとはいえない現状において、これは野望ということだけではなく、生き残りをかけた痛切な思いだろう。

しかし、その方向転換は容易ではない。BTSは、歌詞のなかで社会課題などにも触れる、日本のアイドル市場からみると相当尖ったクリエイティブを行っている。しかも、これらは(ジャニーズが忌避してきた)インターネットを通じて展開されたものであった。もしBTSの戦略を踏襲するとしたら、例えば日本の、特にテレビ局を通じたプロモーションの大部分を、諦めなけれならないかもしれない。

K-POPアイドルのビジネスモデル

ここには典型的なトレードオフが存在している。すでに国内で成功を収めたKing & Princeがこうしたグローバル戦略に乗るのは、容易ではない。それは、ジャニーズ事務所に「国内での(テレビ局を通じた)収益を諦めろ」ということになりかねないからだ。しかし、国内と海外、しかも求められている価値の異なるふたつの市場を同時に注力するのは容易ではない。

皆様引き続き宜しくお願いします。

小山龍介

一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会 代表理事

京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、米国MBAを取得。松竹株式会社にて歌舞伎をテーマにした新規事業立ち上げに従事。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、現職。メンバーの自発性を引き出す、確度の高いイノベーションプロセスに定評がある。翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』で紹介したビジネスモデル・キャンバスは、多くの企業で新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。

2015年より名古屋商科大学ビジネススクール准教授。2014年には一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会を立ち上げ、2020年からは亀岡市で芸術を使った地域活性化に取り組む一般社団法人きりぶえの立ち上げにも携わるなど、アートとビジネスの境界領域での実践を進めている。

著書に『IDEA HACKS!』『TIME HACKS!』などのハックシリーズ。訳書に『ビジネスモデル・ジェネレーション』など。著書20冊、累計50万部を超える。

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