楽園-Eの物語-目覚め
「おはよう」
目が覚めたルージュサンの前にあったのは、見慣れた顔だった。
「いつも僕が起こしてもらってるけど、今回は僕が先だったね」
「え?もしかして?」
ルージュサンの瞳が尋ねる。
「うん。生きてるよ、僕たち」
ルージュサンは体の感覚を確認した。
湧き水のように澄み切っていて、空気のように軽い。
ただ、あまり力が入らない。
周りに目をやると、ムンの家だ。
「愛してるよ。ルージュ」
見つめ続けるセランに、ルージュサンが微笑みを返す。
「いつ目が覚めたんですか?」
「少し前」
「何をしていたんですか?」
「ルージュを見てた」
セランがルージュサンの瞼に唇を近づけた。
《目が覚めたのかっ!?》
ムンが飛び込んで来た。
《ムンが助けてくれたんだね?有難う。僕は平気なんだけど、ルージュは力が入りにくいみたいなんだ》
名残惜しそうにセランが立ち上がり、よろめいた。
自分の髪を踏んだのだ。
それは背丈の倍程にも伸びて、三つ編みにされていた。
《これ全部僕の髪っ!?》
《ああそうだ。女五人がかりで解いて編んだ》
ルージュサンの髪も同様だ。
《有難うございます》
体を起こそうとするルージュサンを、セランが慌てて支える。
ムンが二人纏めて抱き締めた。
《こっちこそ、有難う。でも、二人の居場所を当てたのはオグだ。今までの無礼は、これで帳消しにしてくれ》
《僕達は何処にいたんですか?》
セランが聞き返す。
《洞窟の祭壇の前だ。二人一緒に髪に包まれていた》
《目が覚めたのっ!!》
今度はドニが二人を抱き締める。
《ああ、良かった。ほんとにほんとに良かった》
ドニの涙がルージュサンの頬を濡らす。
《二人とも冷たくなってたんだけど、家の人が生きてるって、皮の感じで分かるって言い張って、家に連れてきたんだよ》
《それからずっと世話してくれたんですね。有難う、ドニ》
《ううん、ううん、村の為に本当に有難う。ああそうだ。まずは白湯を持ってこようね。次はスープだ。十日も食べていないんだから、少しづつ、少しづつだよ》
ドニがルージュサンの削げた頬を見て言った。
《有難う、ドニ》