あの頃の僕へ

思春期にそうだと分かったとき
僕は静かに目を閉じた
信じたくないわけでもなく
信じられないわけでもなく
けれどまだ 腑には落ちなかった

ああ そうか
こういうことなのか
僕はあのとき
このことを胸にしまい
ずっと言わないでおこうと思った

いじめにあっていたからね
僕は人とは違う仕草をからかわれて
学校にいるときは
ずっと泣いていたんだ
誰にも言うことはできなかったんだ

そして
僕のだらしない身体と
そっと見た君の逞しい体躯を比べると
なんだかとても情けなかった
その肉体がただただ羨ましかった

僕のような人間が
気持ち悪がられることを知り
悟られないようにしていた
けれどそれはいつしか
出てきてほしくないかたちであらわれた

寛容、なんていう言葉が
ふっ、と出てきたけれどすぐに消えた
そして自己嫌悪、という言葉が出てきて
どうしようもなくなって
俯く日々が続いた

中学を過ぎ高校に進学しても変わらなかった
あの頃を引きずったまま
生活もさほど変わらなかった
教室の光景を見て、またずっとしまっておくんだな、と
人に見せない苦しみとともに必死に孤独を抱えた

それでも
君の横顔だけは見ていた
何の気なく
君に他愛ないことを話していた
それだけだった

卒業前
大学受験前に高熱で入院した君を
見舞いに行ったときも
ひとりの友として僕はそこにいた
ひとつ言えば何かが壊れる気がしながらも

同じようなことが
思春期に二度もあって
それぞれにあの頃とはまた違った
けれど人に言うことはできなかった
ずっと言うことはできなかった

人と違うことを否定し
人と同じ道を倣っていないと
爪弾きにされることを
どうしてこんな若い日に
知らなければならなかったのか

そして社会は動いている
どこかでは今でも否定の声が聞こえてくる
停滞の中でそんな日々を生きている
気持ち悪いと言われてしまうような
あの頃の僕が抱えたような思いをさせたくはない

だから
そんな今を生きる見知らぬ誰かが
あの頃の僕と似た感情を持っていたら
それでいいと言うんだ
大丈夫だと言うんだ

僕はこうして
思春期のほんの少しの片想いを
いい歳になってほんの少し思い出している
恋なんてしないと思っていたけど
今 僕の隣には寄りかかれる人がいる

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