からだの中の記憶たち。その3
それは、とても静かな風景でした。
5歳の私が、月の出ている夜に。
父と母に手を引かれて歩いているのでした。当時2歳の弟は、母におんぶされていました。
これは、これから家に帰るのか、それともどこかへ出かける途中だったのかはわかりません。ただ、ずっと忘れていた記憶でした。
その夜の、月の光、両親につながれた手の感覚。響く足音。
夜の草の香り。ひんやりとした空気などが蘇ってきました。
家族と一緒で、手も繋いでもらっているのに、私は訳も分からずとても悲しく、不安な気持ちで歩いていまし