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親切な顔をして近づいてくる悪い奴ら〜虚偽情報に騙されないために〜

 我王銀次という俳優がいた。強そうな風貌で身長もあり、ヤンキーやヤクザ役を専門としていた男だった。江口洋介初主演、織田裕二デビュー作の『湘南爆走族』に出演していた。私が特に好きな作品は、玉置浩二がひたすら歌って、小林薫と素晴らしいハーモニーを奏でる『キツイ奴ら』で、再放送を録画したものを何回も観ていた。トボけてお茶目な悪人役が本当に面白かった。

 次はどんなドラマや映画に出るのだろうと思っていた日々に、朝のワイドショーで告げられた彼の死。死因は白血病だった。享年33歳。
 もう彼の演技を見ることはできない、大好きな俳優がいなくなってしまった、と心の奥底に悲しみをしまった。


 『湘南爆走族』“初代湘爆”を画業40周年の吉田聡が描く、次号YCで新連載として開幕(コミックナタリー)というニュースを見て、懐かしくなり、彼の名前を検索してみた。


 私はずっと何十年も、我王銀次は、薬石効なく、無菌室のベッドで、ガラス越しの家族に見守られながら死んだと思っていた。
 このHPを見るまでは。

白血病になったという報告を受けたのはそれから間もなくだった。病院では最早治療のしようがないという宣告を受けたとかで、すでに我王はまだ二十代の超能力先生に全幅の信頼を置いていた。我王は、先生が手でさすってくれると病気が治まる気がすると最後の日まで言い続けて、相応のさすり代を払うと静かに昇天していった。死に顔は案に相違して苦悶に満ちた表情であったと運転手兼雑用係は沈痛な目をして呟いていた。

https://www.gentosha.jp/article/14870/


相応のさすり代って、なんだよ!!!
お金が無ければ、生活保護があるじゃないか……。
医療費が高額なら、高額医療費支給制度があるじゃないか……。
(この時代には無かったのか?)
病院が、患者を見捨てるなんてことがあるのか……。


 白血病は難しい病気だから、全力で治療しても助からなかったかもしれない。もう助からない、と言われれば、心の平穏を保つために、何かにすがりたくなってしまうかもしれない。それでも、最後まで力強く病と戦って死んだ、と信じていたかった……。せめて、医療者による緩和ケアであれば、まだ納得はできたのに。
 苦悶の表情を浮かべて死んだ、という言葉だけが胸に突き刺さった。


■どうすれば本当の救いの手を選べるのか

 自分が弱った時、不安になった時に近寄ってくる人達は、ほとんどが善意の人なのだ。でも善意の顔をした中に、悪い奴らが混ざっている。
 どこから聞きつけてくるのか不明だが、彼らは確実にやってくる。
 私の叔母も、叔父が若くして突然死した時、どこかからかやってきた宗教団体にたかられていたし、家庭環境に問題を抱えていた高校時代の友達は、手からでた光が体の病気を治すという教えにハマっていった。
 文化や宗教は大切だと思うが、本人の限度額を超えるお金を巻き上げたり、世間と隔絶させて人間関係を破壊させるような方向のものは、良くないと私は思う。

 人は不安になると、見たいものしか見えないので、ますます不安に陥ってしまうような情報ばかり集めてしまう。そして、その状態で不安が和らぐような光を見つけると、それに飛びついてしまう。それが光ではなく、地獄への階段の入り口だと気付かずに……。

 悪い奴はカモを見つけたら取り逃さないように囲い込む。世間と隔絶させて、世の中の人から冷たく当たられて、一般社会に居場所がなくなるように仕向けるのだ。世間から無視されることで、世間は間違っていると思いこませて、一般社会の居場所を無くして、逃げられないようにする。
 居場所がなくなるのもキツいが、命を落とすことはもっとツラい。癌と親告され、標準治療であれば助かったのに、非科学的な代替療法を信じて手の施しようが無い状態にまで悪化させてしまう例が今も後を絶たない……。

 こんなえらそうなことを書いているが、私も病院で、
 「あなたは癌です。5年後の生存確率は30%です」
 と言われて冷静に判断できる自信は全く無い。うろたえて不安になって、これまでここに書いたように、簡単に悪い奴らの餌食になってしまうだろう。

 そうならないためにできることがあるとすれば、あらかじめ科学的に正しい知識を蓄えておくしかないのではないのかと思う。また、周りに科学的に正しい判断をできる友人を持てたら、なお良いのではないかと思う。
 コロナのワクチンについて不安になっている人を見かける度に、m-RNAがそもそも何かがわからないのではないかと感じる。人間の遺伝子はDNAでウイルスの遺伝子はRNAで、ウイルスは生きていない、ってところから話をはじめなきゃいけない。そこからウイルスが増殖するしくみの話をして……、理解までの道のりは長い。
 私がフランス料理の本格的な本を読んで、ソース・グラン・ヴヌールやソース・ヴィエルジュの意味が分からないのと同じ。自分のこれまでの人生で馴染みが無かったものは、理解するのに時間がかかる。
 そのような状況でも、日本は人口1億2千万人に対しすでに1億人がワクチンを接種しており、これは日本の教育水準の高さに起因しているのではないかと思う。マスク等の感染予防の取り組みもあって、現状では他国に例を見ないほどの抑え込みに成功している。


■もし不安になっている人を見かけたら

 大抵の人は、自分が正しいと思っているので、自分の考えを否定されたら、構えて、意固地になり、こちらの話を聞かなくなってしまう。誰でも、自分が大切にしているものをけなされたら、怒ったり、悲しくなったりして、そのけなした人を拒絶するのではないのではないだろうか?
  不安になって、非科学的な情報や、事実と異なる情報を信じている人に対しては、否定も肯定もせず、「それは不安になるよね」という共感と、「それは違うんじゃないかなぁ」というやんわりとした気持ちを伝えて、向うが気づくまで気長に待つしかないのではないかと感じている。
 でも、明らかなデマや、ヘイトをまき散らしている人、弱者を食い物にしている悪い奴ら、には毅然とした態度が必要だと思う。
 自分はワクチンを接種していて、反ワクチンの親玉として人々を扇動し、ただ不安になっている人達を危険にさらしている極悪人とかに罰則が無いのは、本当に不公平だと思う。法律でなんとかできないのだろうか?
 特にイベルメクチンは疥癬の薬で、製造元もコロナには全く効果が無い、って太鼓判を押しているのに……。その他にも、自分の開発したサプリに誘導して丸儲けしようとしている極悪人がちらほらといる。

 疫病によって、有形無形の害を被った全ての人々が、あらゆる意味で回復し、幸せになりますように。

 

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