見出し画像

新卒採用編その4 志望動機その2の3

今回は、志望動機その2の1で挙げた5つのキーワードの3つめ、バラエティ≒ダイバーシティについてです。

前回の結びにも書きましたが、これは志望動機に正解や王道がないことをお伝えしたいためのキーワードです。
就職アドバイザーの方々がよく志望動機の書き方のお作法を指導されてらっしゃいます。中にはきちんと就職、労働というものの本質を捉えて的確かつ根源的なアドバイスをされている方もいらっしゃいますが、なんというか、テクニカルな部分に終始してしまっているというか、小手先のメソッドしか説明できていないケースも少なくありません。ただ、企業の立場から言わせてもらえば、極論、たとえ論理が破綻していたとしたも、なんだか面白そうだなと思えば書類審査は通して面接で判断しましょう、となるのが現実です。
もちろん、アドバイザーの方々が教えてくれたメソッドに則ることで選考を通過する確率があがるであろうことは否定しません。ただ、まあ見抜けないほうの落ち度ではありますが、小手先のテクニックで内定にこじつけて、それを辞退したとして、そのイスはほんとうに働きたかった(かもしれない)ウン十からウン百の屍の上になりたっているということは事実です。内定辞退は悪どころかむしろミスマッチを避けるWin-Winな行為ですが、ハナっから本人がいらないと考えている保険の意味での内定の長期留保は、悪とまではいいませんが、採用担当者が恨み言の一つもいいたくなる気持ちもわかってあげてください。まあ見抜けないほうが悪いんですけどね。

なんにせよ、そういった小手先のメソッドやテクニックには実際にはそれ以上の意味はなく、また、志望動機の書き方にも正解や王道はなく、個人の価値観やロジックをおおいに表現していただくことが本来の趣旨であると考えます。もっとも、それが上手く表現できないというのであれば多少のテクニックに頼っていいと思いますが、決してそれが全てではありません。

その前に、そもそも、大きな会社であればあるほど、書類審査にESの内容それ自体が含まれない可能性が高いということもあります。実は最初のES提出は受験意思の確認程度のもので、筆記試験や適正検査実施後の一次面接ではじめて内容を確認する、なんてことは実は珍しくありません。というより、そうでないと短期間で多くの候補者を捌ききれません。長い時間をかけてじっくり審査したいのはやまやまですが、そうすると候補者のみなさん全員を何ヶ月もお待たせすることになるので、それはそれでよろしくないことなのです。何ヶ月もお待たせして合格ならまだしも、不採用の場合、候補者の側に立てば理不尽な話でしょう。
AIを駆使すればどうでしょう。書類審査に明確な基準を設けて、そこをクリアしていれば合格、とできれば簡単なのですが、実際はそうもいきません。書類審査で今のAIができそうなのはせいぜい、ESの要約くらいなものだと思います。要約は便利ですが、結局細かな文脈によってニュアンスが変わることがあることを考慮にいれると、それを合否の決め手にするのはあまり合理的だとは考えられません。
だからといって筆記試験や適正検査を合否の決め手にしてしまうことが正しいということにはならないんですが、まあ、妥協点として多くの企業がこういった審査の方法をとっています。
なので、小手先ということであればSPIの過去問でも解いていた方がよほど建設的です。SPIよくできていますよね。最初は懐疑的でしたが、今はあながちバカにできないと思います。
会社によっては実は書類審査の段階ではESの内容それ自体とは全く関係ない場合もあるのです。

ただし、それにしても結局は選考のかなり早い段階で志望動機は重要な審査項目のうちの一つになります。そして、決して企業はそこで正解のテンプレートを用意しません。先ほども触れましたが、こう言ってきたら合格、こう言ってきたら不合格、という基準は、ほとんどないと思っていいでしょう。

なぜ、企業がそのように考えているのか。そこには明確に意図的な目的があります。それは従業員のバラエティを豊富なものにしたい、というものです。会社には様々な種類の人材が必要です。単純作業が得意な人、効率化が得意な人、色彩感覚の鋭い人、記憶力のある人。それらの様々なキャラクターが組み合わさってはじめて会社組織というボリュームメリットを享受できるのです。組織では1+1は2になりません。それなら組織である必要がないからです。似たようなキャラクター、似たような能力だけの人たちの集まりであれば単に人数が多いだけですから、会社は会社である必要がほとんどありません。極論、個人事業主の集まりとして、オフィスをシェアして物理的な規模の経済だけを享受すればいいだけの話です。

実際は企業というものは、自分たちがすでに得意な分野で活躍できる人材を探しているのと同じくらい、自分たちが不得意な分野をカバーできる人材を探しています。あわよくば、自分たちの想定からはみ出して、新たな風を吹かせてくれるかもしれない人を雇いたいと思っています。なのでどちらかというとありきたりで想定の範囲をでない志望動機にはあまり魅力を感じません。テンプレートではなく、本人のパーソナリティに根差した、その人固有の価値観を提示してくれることを楽しみにしています。

加えて、同じような志望動機が連続して登場してくると、正直言って審査する側の頭から、その部分だけすっかり消えてなくなってしまいます。という話は次回に持ち越すとして、今回は企業経営的な視点でありきたりで月並みなテクニックによる志望動機が有効でない理由を書きます。

それこそがバラエティ≒ダイバーシティです。ダイバーシティと素直に表現しなかったのは、今や多様性という言葉はバズワードでありながらすでに手垢のついた陳腐な表現に陥されつつあり、私の真意を表現するのにあまり適切でない気がするからです。企業経営には間違いなく必要な視点ですが、それは決して様々な価値観に配慮すべき、といった義務論だけではなく、様々な価値観で事業ポートフォリオを幅広なものにするための戦略的な視点です。つまり、いろんな価値観を認めて世間様に対して正しく責任を果たす、という守りの姿勢と同時に、いろんな価値観を活かして戦略に組み込んでいく、という攻めの姿勢こそ大切なのです。
私がバラエティといった時、それはダイバーシティもエクイティもインクルージョンも内包した、タクティカルかつポジティブなもの、とひとまずはお考えください。(カタカナばっかりでちょっとうざったいですね)

こんなこといまさら言う話でもないですが、高度経済成長期の日本は、今までうまくいっていたことを実直に続けることが成功への近道のうちの一つでした。人口減や高齢化の心配もなく、経済の規模は大きくなっていくばかりなので、その膨張の波にうまく事業を乗せられさえすれば、ある程度の成功は約束されていました。そして、そのために紙や電卓を使ってコツコツと仕事をする産業ロボットのような人材や、オンライン会議がない中で直接自分の足で顧客や仕入先と顔を見合わせて、時に宴席で情報を仕入れることができる土臭い営業スタイルこそ最高効率と尊ばれ、評価の対象になってきました。
対して現代の日本は少子高齢社会、もはや社会全体で今までと同じことを繰り返していては、縮小する経済の規模の波にのまれて減益し続けてます。もはや、今まで上手くいっていたメソッドだけに頼ったオーガニックな成長は見込めません。せいぜい現状維持がいいとこです。
ですので企業は様々な事業範囲に幅広に網を張り、リスクを分散しつつ、社内から新たなイノベーションが起きることに期待します。時に変化球も有効でしょう。先行き不透明な時代というか、日本だけで見れば社会全体が縮小していくことがわかりきっているような冬の時代ですから、なおのこと、一つの事業に全振りするような博打はリスクが大きすぎてできません。月並みな言葉ですが今まで通りの価値観に縛られていると、衰退していくことが目に見えている時代なのです。今まで上手くいっていたやり方だけに頼るのは危険な一点賭けなのです。

ある超一流企業の経営者の講演を聴講した際、権威主義はイノベーションの敵だとおっしゃっていたことがあり、心底同感したことを覚えていますが、この話も踏まえて、人的資本経営的な話はまた別の機会に書くことにします。
ただ、大きな会社であればあるほど、現実問題それが可能かどうかは別にして、画一的なキャラクターやパーソナリティだけで組織を構成する全体主義的な体制は大きなリスクだと考えるのが、まあ経営の常識です。

なので、新卒中途問わず、外部から雇い入れる人材には、平たく言えばバラエティ豊富な、手玉の種類として様々なキャラクターを持っておきたいと考えています。

ただ、ここで強調しておきたいのは、逆張りで気を衒うことが必ずしも有効ではないということです。それがその人のパーソナリティであるということであれば、あとは企業とのマッチングということにもなりますが、バラエティ豊富な分野をカバーすると同時に、その企業にとってはユーティリティプレイヤーとして活躍できる人材こそが必要だという前提を忘れてはいけません。

例えば、これはソーシャルゲームで例えると分かりやすく説明できるかもしれません。運営側が将来どういう攻略対象を用意してくるかわからない中で、現時点で最強と言われているカード群だけを育成していると、運営が別のイベントをリリースした際に相性が悪く全く歯が立たなくなってしまうなんてことはよくある話だと思います。
ですのでプレイヤーは、自分の手持ちのカードを満遍なく育成しながら、さらに有用なカードを調達しようとします。ですが、中には尖りすぎたパラメータが故に活用できる局面が限られているカードもあり、そういったものの取得や育成は、本当に必要な局面に出会したときまで手を出せません。もちろん余裕があれば、保険の意味でそういった戦略を組む場合もありますが、バラエティを重視しつつバランスよく有用なカードを揃えることのほうが優先されます。

結局、企業の人員戦略も同じようなことで、企業は、これしかできないけど突出して大きな利益をもたらす、というような人材はごく少数、必要最低限だけ切り札、飛び道具として温存するかもしれませんが、その他大多数のボリュームゾーンにはバラエティとユーティリティを両立したラインナップを充実させて、来るべき事業環境の変化に備えたいと考えながら人材獲得と人材育成に臨みます。

じゃあどうしたら企業の求めるバラエティとユーティリティを両立できるのか。答えはあなたのパーソナリティにあります。

実はみなさん自身が思っている以上に、みなさんそれぞれ特異で稀有な存在で、一人一人が実にさまざまなバックグラウンドを抱えて生きています。あなたという人間はこの世に2人と存在しません。自分自身で平凡な人間だと思い込んでいることは往々にしてよくあることではありますが、良きにしろ悪きにしろ、全く同じ環境で同じ考え方、同じ価値観、同じ能力を持った人はどこにもいないのです。そしてそれは良い悪いの二項対立では決して語り尽くせない、唯一の存在で、手放しに素晴らしいことと言っていい思います。まずは自分を好きになってください。じゃないとそもそも自分の良さも相手に伝えられませんよね。

企業の選考で、志望動機を確認するときは、採用担当者はそこをこそ見せて欲しいと思っています。そして、あなたしか持ち得なかった価値観を表現してほしいと思っています。例えそれが面接官の価値観と一致しなかったにしても、筋が通っていたり、面白そうだなと思えたり、必要な視点だと共感できたら、ヨシ、合格!と言うと思います。

それを、付け焼き刃で表面を取り繕った言葉で固められてしまうと評価のしようがありません。多少のお化粧はいいと思いますが、少なくとも入社後にその顔を維持できないと感じた時点でミスマッチの温床になりますから、テンプレ丸出しはやはり敬遠せざるを得ません。

でも、会社側の価値観がわからないなら情報が非対称じゃないか!フェアじゃない!モラルハザードじゃないか!とおっしゃるかもしれません。
ある意味では全くその通りで、申し開きもないのですが、一応、オフィシャルな価値観、少なくともそれがあるべき姿だと思っているものは、会社は予め提示しています。
それは経営方針だったり、最近ではMVVやパーパスと言われるものであったり、社是であったり、創業精神といった、その会社の理念体系です。
そしてそれらはたいがいきちんとホームページにのっています。

前回も触れましたが、その会社の選考を受けよう、あわよくば内定をもらおうとしているなら、どのタイミングでもいいのでホームページをざっと見るくらいのことはしてもバチはあたりません。まずはその会社が、まあオフィシャルには、どういう価値観を大事にしているか見てみてください。
その上で、ご自身の根っこに関わる価値観と、まあまあ矛盾しなければ、その会社を受けてみる価値はあると思います。そうでなければやめた方がいいんでしょうね。とは言えたいがい常識的なことしか書いていませんのでそこまで矛盾する心配はないと思いますが、まあ事前に確認しておいて損はないでしょう。

ここはむしろ小さな会社の方が重要なんでしょうね。スタートアップでこれから、という会社や、軌道に乗ってユニコーンと呼ばれるようになってくるとなお、保険や変化球に余力を割くよりもボリュームゾーンに全振りして稼げるだけ稼ぎたいものですので、オフィシャルの価値観にはなおさら、そこだけはどうしても譲れないものを表現するでしょう。
対して大きな会社、成長曲線が緩やかになった企業は、先ほどのお話の通り、バランスよくバラエティを充実させたいので、オフィシャルの価値観はどうしても八方美人になりがちです。
どちらもいい悪いではありません。まあそういうものだと思っていただければいいだけの話です。

その会社の譲れない価値観やオフィシャルの方針に矛盾しない程度に自分らしさを発揮できるのであれば、そこではじめて互いをもっと知ってみよう、となるのです。

よく就活を勝ち負けで論じる方がいらっしゃいます。一方でそれは本当に真実であり、否定しようがない事実なのですが、一方でそれが決して正しいこととは思いません。勝ち負けは、会社に入ってから同業他社と市場で展開されるものです。むしろ就活の勝ち負けと言うのであれば、人材獲得競争を労働市場で繰り広げる企業側のセリフであるべきと考えます。

企業も選ばれる立場ですので多少のお化粧はします。ただ、そのお化粧は、夜寝る時も落とさない覚悟でやっています。なので、そこで裏切られたら会社が100%悪いです。それはもうごめんなさい。でも、一部の人がそうであるだけで、会社の総意としてはそうありたいと願っていることに違いはありません。一部の人がそのお化粧を裏切らないために内部統制というものがあり、そこがしっかりしている会社は信じていいです。ちゃんとした会社です。その辺もまた別の機会に論じます。

逆に言えば、あなたがそこの従業員になった時は、そのお化粧を維持する義務を負います。どういうアプローチでもいいのでその理念体系に共感できなければ、その会社とはミスマッチを起こします。
そしてそこさえ共感できれば、あなたはその会社で自由に自分らしさを発揮できるのです。

今回は6000字でした。ちょっとここまで熱中しすぎると冷めるのも早くなってしまいそうなので、次回はちょっと間を開けます。次回は、今回でも少し触れましたが、みんなとおんなじだと覚えてられない、という採用担当者の悩みや愚痴に近い話で、これまで以上に便所の落書きになると思います。
ではおやすみなさい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?