弦の上で舞うが如く

 バイオリンにおいて現在の課題曲はニコロ・パガニーニの「24のカプリス」。身に余るどころかプロも高難易度の曲として挙げる作品である。
 この曲が提示された時、私は当然動揺し何とか回避しようとしたのだが、先生は上品に当然に「(私)ちゃんならできるわよ、今までうんと練習してきたもの」とおっしゃられた。そう他意なく言われては白旗をあげるしかない。ちなみに先生はしばしば全く無邪気に楽しげに私にハイレベルな技術を求めるので、私は内心それを「ニコニコスパルタ」と呼んでいる。
 そうして私は分不相応な曲を弾きこなすべく四苦八苦しているのだが、このカプリスはとにかく左手を酷使する。理解不能な高難易度の技術が詰め込まれていながら曲として成立している。この曲を作って弾いたパガニーニは左手だけで螺旋蝶々結びができたのではなかろうか。
 さておき、左手を酷使すると何故か指ではなく手首に痛みが集まる。実際に弦を押さえ弾き駆るのは指なのだが、ひとしきり弾き終わって手のひらを広げると、手首が捻挫したかのように痛む。筋肉が指先から手首まで繋がっているということなのだろうが、それにしても指は何ともないのに何故手首だけが。指は、指自体が動いているのではなく手首が動かしているということなのだろうか。 
 私はこの程度で弱音を吐いているが、この曲をアサギマダラの如く弾いてみせる先生はどれほどの修練を積んできたのだろう。プロとして世に出るには音楽の才の他に「壊れにくい身体」も必要なのかもしれない。


今日の英語:Capricci

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