そして来年の椚の新芽に

 道端に雀の死骸があった。
 バイオリンのレッスンに行く途中、アスファルトの上にころりと落ちていた。拾っていくとこも考えたが、これから先生のお宅でのレッスンがある。カバンに入れておけば?いや感染症のリスクがあるものをあの繊細な先生のお宅に持ち込めない。住宅街の道の端なので、動かすこともしないでそのまま立ち去った。

 約1時間半のレッスンの後、雀の死骸はそのままの場所に落ちていた。これからは私だけの帰り道。カバンから高機能ティッシュを引っ張りだし、死骸を包んで左手に持って歩きだした。
 薄曇り、桜は八分咲き。緑の多い昼下がりの住宅街は人が行き交う。左手の小さな重み、仄かに温もりを感じたような気がするが錯覚だったのだろう。その重さは私の部屋のシトリンと同じぐらいだろうか。
 雀は綺麗な姿で落ちていた。拾い上げたアスファルトの跡には私の小指の爪ほどの黒い染み。怪我も何もなければ、寿命だったのだろう。冬を乗り越え花の季節の始まりに息絶えたのだ。
(あの歌には雀と死があったが、あれは雀が駒鳥を射殺したのだったな)
 帰り道の駅の手前に丘陵公園がある。そこに雀を埋葬するつもりだ。雀の魂はもうここにはいないし雀自身も葬儀など望んでいないだろうが、私の自己満足だ。アスファルトの上で融けていくよりかは土に還ってゆく方が良かろうと。もしくは清掃工場。大地の色をした小鳥は土に還るのが似合っている。
 春休みか、子どもの声が多い。陽当たりの良い斜面に適当な場所を見つけて掘っていく。よく掃除された公園の土は硬い。どうにか雀の体を隠せるだけの穴を作って埋葬した。雨が心配だが、今日土砂降りにでもならない限り大丈夫だろう。雀の小さな体は明日の土へ還ってゆく。



今日の英語:Sparrow

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