今日は分岐を遠い方に

 わざと知らない道を遠回りして、わざと半ば迷子になる。

 帰宅時間に余裕があったので、知らない道を遠回りした。
 よく分かっていない道を歩く時、私は「外枠」を設定する。それは川や線路や幹線道路など“道に迷った時の最終ライン”。適当に歩いてもその外枠さえ越えなければ大丈夫、逆に外枠に到達してしまった時は方角の認識が完全に間違っているのでスタート地点をリセットする。そうやって適当な目的地へ適当に歩く。
 今日もそうして適当な大通りを「外枠」に設定して、職場最寄り駅からめ三つ隣の駅を目的地へ歩き出す。線路沿いに歩けば準最短距離でたどり着けるが、今日はいつも門前を通り過ぎる寺院の後ろへ回り込むルートを選んだ。このルートなら目的の駅まで三角形の長辺ではなく短辺ふたつを歩く程度の遠回りになるはず。だと思ったのだが、

 いつも正門とその周辺ぐらいしか歩いていなかったので完全に私の見当間違いなのだが、そのお寺は後背が「ひょうたん」のようにふくらんでいたのだ。ただ道なりに歩いていても目的地と逆方向に進んでしまう。
 けれど、外枠さえ越えなければ大丈夫。勘と、人と車の流れ、バス停の名前、スマートフォンの拡大地図、そういったものを総合して道を選ぶ。長く立ち止まったり周囲の人には訊かない、自分で組み立てた情報だけで歩く。ちょうど日暮れ頃、空は蒼暗く地上は黒いシルエット。
 初めての道、小さな不安とワクワク。

 そして無事、目的の駅へ到達。30分程度の道程だが、僅かな冒険心を満たすことはできた。またこの道を歩くことはあるだろうか、晴れた日平穏であればまた。


今日の英語:Outer frame

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