ネコーヒー:ストレート #16杯目

 初代の猫はしばしば屋外に脱走した。女王陛下は興味は無いようだったが、“わからんちん”のボンクラ小僧と元々我が家の庭で生まれ育ったどんくさお嬢様はしょっちゅう部屋を抜け出した。完全室内飼いすべく窓やドアは閉めきっていたのだが、現実には網戸を破り柿の木をつたって庭に降りては遊んでいた。
 しかし現行世代のテトとマユは野外への興味や執着が全く無い。彼女たちは保護猫で、特にマユは耳先がカットされた「さくら猫」であるからには野良猫だったはずだ。しかし彼女たちはもう五年前からこの家で暮らしているような顔をして、我が家の庭がどうなっているかなぞ毛ほども関心がないらしい。

 しかし唯一の例外がテトの「草食べ」だ。荷物の出し入れなどで玄関を開け放っていると、静かに抜け出して玄関先にはえているリュウノヒゲを食べている。猫は消化の助けに草を食べるものだし、遠出をするつもりもないようだからいつも黙認していた。
 しかし今日事件が起きる。以下は私が不在時の出来事で母からの報告である。
 何の弾みか、今日も草を食べに外に出たテトが庭で迷子になり、縁の下に潜り込んでしまったのだ。パニックになったテトが床下で鳴いていることで母が気付いた。しかし我が家の縁の下は人間が入れるような構造ではない。さいわいまだ日が高い時間帯だったので、縁の下の出口にフードを起き玄関を開け放って様子を見た。
 幸運にもテトは1時間ほどで縁の下から脱出できたのだが、まだ混乱が抜けないのか玄関に入ることができない。捕まえようにもそもそもテトは抱っこが嫌いだ、また縁の下に入られたら……と母が思案していると、いつの間にやら玄関に降りてきてたマユがハスキーボイスで鳴くとテトはするりと入ってきた。マユもテトを心配していたのだ。

 そしてふたりとも人間を心配させたことなどなかったような顔をして大盛りのご飯をしっかり食べた。
 屋外にはもう出たくないけど妹が心配なマユの一面が見れたので、プラスマイナスのプラスでいいってことにする。


今日の英語:Lost in garden

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