徒歩で遭遇する人生の一瞬

 私の職場の近所には男子中学校があるらしく、朝駅を出ると大勢のブレザー姿の少年達が踏み切りが開くのを待っている。そこから私も約100mほど同じ方向へ歩いていくのだが、よく切れ切れに学校生活が漏れ聞こえてくる。「更級日記の作者って…」や「次の世界史のテスト、インドの王朝どこまでだっけ?」など。そういう会話が聞こえると、どういう根拠の感情かよくわからないが心の中で『よしっ!』とガッツポーズをしてしまう。
「今日お前日直じゃねえの?」「いや明日だよ、怖えこと言うなよ」積極的に盗み聞きするような熱情はないが、また何か面白い会話が聞こえないかなと思いながら5年の毎日を歩いている。しかし、今年1度だけ途轍もないものを見た。私の前を歩く二人の少年は手を繋いでいたのだ。
 まだまだこれからも背が伸びるであろう歳の二人の少年。照れくさそうに相手の指先だけ掴んでみたり、肩に手を乗せてみたり。それはほんの10秒ほども無かった遭遇だが、いかなる単語も合致しない妙な滾りが全身を駆け巡った。そして私の中の豊満なヘルマプロディートスが『いーのよアンタたち、それでいーの』とスタンディングオベーションを送っていた。
 通勤の1m先に時に学業と初々しい人生の垣間見え。今日も新鮮な時代が紡がれている。

今日の英語:Commuting

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