水素と酸素の自在

 どの季節も散歩はよいものだが、ことに冬は水面が映える。

 私が被写体として惹かれるもののひとつに「水面」がある。海でも川でも水溜まりでも。空の色をただ受け入れているのも絢爛と陽光を乱反射しているのもいい。その中でも特に好きなのが風景を写しているもの、さらに三重の写しになっているのが最高だ。
 空中の風景、水中の造形、そして水面自身の揺れ。空も水も静かな時に構成される光景、浅い水でも透明な色彩と無限の空が重なり、吸い込まれるような深さがある。

 そういった水面に出会えるのは木々が葉を落とし風が凍てつく冬に可能性が高い。呼吸するたびに肺に一瞬の霜が張る冷気、家々の窓が固く閉ざされ喧騒が遠ざかる冬。

 木々の先端ではまだ硬い芽から透明な炎がたち昇っている。水面には目も眩むような宇宙への深さ。耳が痛くなるような寒さの中で私はツングースカから放出された冷気の破片を呼吸している。



今日の英語:Overlap

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