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ほんの浅い空気のそこ

 この日は仕事関連の手続きのために外出した。特に交渉沙汰ということでもなく規定の書類を提出するだけ。その提出のために歩いて消防署へ行き電車を乗り継いで保健所へ行った。

 今年の文月葉月は曖昧な空模様が多かったが、今日は清々しいまでに晴れた。業務なのに散歩日和で幸運と捉えるべきか灼熱苦行と捉えるべきか。いずれ知らず空は見事に晴れていた。
 虚無のように青い空。
 冬の空は鉱質で遠いが、夏の空は何と表すのが相応しいだろう。膨張した濃厚な色彩。高揚と解放感と、それでいて剃刀の切れ目のような寂しさが埋めようもなくそこにある。

 などと考えてばかりいたら、駅の降り口の方向を間違えて歩いていた。往復10分のロス。脳内の液体が揮発して思考の循環が目詰まりしたか。私は地図が読めるという認識は撤回した方がいいかもしれない。

 それでも空は虚無。
 あの色の向こうに宇宙があるとは知られていなかった時代、高みを目指した人々は何への到達を求めたのだろう。宇宙の深淵を知らなければあの青に溶けてしまったのではないだろうか。

 役所での手続きは滞りなく進行。人々が地上を行き交う間も空は圧倒的に青い。余りにあつく鮮やかで、もはや愛憎なぞ湧かない。

 どれだけ映像技術が進化してもこの空の深さは再現できまい。完全な世界を再現するなら、モモが住んでいた劇場のように世界をそのまま移さなければ不可能だろう。

 夏の空を浴びた日。保健所の手続きミスで保健所をまで2往復する羽目になったのは今日だけの愚痴にする。


今日の英語:Summer sky

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