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錆びかけペダルを奮い起たせ #3

 コーヒーと軽食でもと思うのだが、ターミナルには適当に入れるような店がない。ことごとく高い。チェーンの喫茶店でもあれば繁盛間違いなしだろうに。あまりに空腹なので背に腹は代えられず、蕎麦屋で自然薯いりの蕎麦を食べる。店員がやたら愛想が良いのが申し訳無くもなり切なくもなる。
 夏期休暇期間、ターミナルが空いている。空気がよく冷えて、みんなゆったり座っている。

 ターミナルに来て驚くのは、こんな小さな空港でも「本気の飛行機撮り」と人達がいることだ。大きな恵方巻のようなレンズがついたカメラを持っているのですぐにそれとわかる。文字通り老若男女がカメラを滑走路に向けて構えている。時に三脚を設置しているのみならず、本格的なビデオカメラと風防のついたマイクを構えている御仁もいる。私にとっては「視野が広くて遠近感のある風景」といった認識だが、航空機好きには収集すべき情報の多い空間なのだろう。

 帰路は益々ペダルが重い。あれだけの距離をまた走らなければならないのだ。帰り道が全て下り坂になればいいのに。そう考えると登山とは合理的な苦行なのだな。
 夏であるが前ほどは日は長くなく、暮れかけの空に秋の色彩が顕れつつある。
 人工の地面、人工物で覆われた地平。それでもここが心地好いのは、空が広いからだろう。おそらく見えぬ点線で区切られて、見えぬレーダーでまさぐられている。それでも鳥を風を、季節の移ろいを、遮ることはできない。それが人が招いた厄災であっても。

 画像フォルダを見返すと、思っていたよりも撮影枚数が少ない。もっと写真を撮るつもりだったのだが。スマートフォンをカバンから出し入れする動作が億劫であるのと、自転車で“立ち止まる”のが厄介であるのが大きい。特に自転車で走っていると、慣性を止めるだけでエネルギーが必要だし、停まる場所を選ばなければ道路の流れを濁すことにもなる。
 空が広くてもっと人間がいない土地を延々と走ってみたい。
 糖分が欲しくなって、また喫茶店に寄ってコーヒーとアイスクリームを摂取して帰宅した。

今日の英語:Terminal

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