遠くに雨、彼方に火、ここには無言たちこめる

 においの無い日が続く。熱のにおい、草のにおい、雨が来る風のにおい。夏はにおいが映える季節なのに、雲の沈黙に被われて何のにおいも無い。
 マスクもしているから。
 病は気配もさせず街に浸透し、怯えた人間だけが口を覆っている。
 いつか手を広げて深呼吸し、素顔で笑ってもとがめられない日はくるだろうが、それはどれほどの未来だろう。
 虫も飛ばない。でも私は蚊取り線香に火を点けて、今がただ7月であることを反芻する。

今日の英語:Citronella

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