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錆びかけペダルを奮い起たせ #1

 いつまでも変わらない古典のような夏を満喫する仕方。
 全日本的に夏の休暇期間である。しかし出掛ける当ても無い。しかも推奨されていない。かといって家に籠るにしても、今私の部屋はエアコンが無く、さらに外壁工事のため窓は養生で塞がれている。どうせ熱いならいっそと自転車で出掛けることにした。目的地は沖合の空港。以前二度ほど挑戦したのだが、調べ方が雑だったので最果てまで辿り着けなかったのだ。今度はこれまでの経験値もあるからとまた雑な下調べで出発した。
 県境になっている川沿いを走りながらまず思う。自転車用の帽子が欲しい。この日私はサファリハットをかぶっていたのだが、川沿いは風があることもあってすぐに帽子が舞い上がる。それを防ぐために目深にかぶると今度は視界が塞がれる。年に一回なのだから日焼けぐらいしてしまえと、帽子をカバンに突っ込んだ。

 この日の目的地は二ヶ所。件の空港ととある“ほこら”だ。私は特定の宗教の信徒ではないが、今日の定刻に間に合わなくてもそこで手を合わせたいと前々から思っていた。しかし、私もそうなのだが、このクソ熱い中を走ったり走行したりしている人間の多いこと。河川敷では少年野球の試合。人間がこれだけ多いのだから、外出する人間の割合が低くても集まればこれくらいにはなるのだろう。
 河口に近づくにつれすれ違う人間は少なくなり、道のすぐ横は住宅街なのに眠ったような気配におし包まれる。密度の高い静寂、不純物の多い水のにおい、遮るものの無い太陽の熱。ようやく目当ての“ほこら”に辿り着く。小銭と交換に線香をたてる。今日は8月15日。少し深呼吸してまた自転車で走り出す。

今日の英語:Defeat

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