ポケットの中の熱的平衡
冬場はコートのポケットに缶コーヒーを入れるのが好きだ。これから飲む暖かいコーヒー、腿にあたる熱。けれど近頃は温度が落ちている。
缶コーヒーは毎日は買わない。特に冬場はあまり喉が渇かないので、仕事がよほど遅くなった時の帰り道かバイオリンのレッスンの帰り道くらい。文字通り一仕事終えての解放感の路上でのむ。バスに乗らず歩いて帰る道、河川敷の対岸を眺めながら飲む微糖コーヒーは腹腔にしみじみとしみる。
しかし自動販売機でもコンビニエンスストアでも、缶コーヒーの保存温度が以前より低くなっている気がしてならない。かつてなら取り出してすぐは手のひらで触れないほど熱く、しばらくは指先で縁を摘まむように持つ必要があった。それが今はすぐにプルタブを起こして飲むのにも躊躇ない温度。おそらくこれは安全や消費電力を考慮した業界全体の変化なのだろう。
かつての温度に戻せとは思わない、ただほんのり寂しさだけがある。
熱すぎる缶コーヒーをポケットに入れて公園を目指して歩いた日々。私の行動は変わらなくても世界は確かに推移している。
今日の英語:Canned coffee
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