捉える焦点は遠ざかる

 TV番組の音声が聞き取りにくくなっている、そう母と私は結論付けた。
 母は耳鳴りの持病があるため、高く細い音が聞き取りづらい。なので私がTVで流れているBGMや効果音に難癖をつけても母には聞こえていなかったということがしばしばある。私はやや「音」に過敏な傾向があるため、私と母が認識している聴覚情報にはズレがあるようた。
 しかしその私と母がある音声情報に関して意見が一致した。それは『最近のTV番組の音声は聞きづらい』だ。TVの音量も喋る声の速度も変わったわけではないが、ふとした単語などが聞き取れないことがしばしばある。特別難解な話題でもないのだが、エアポケットに落ちるように文章の途中が失われてしまうのだ。
 ついに私の耳にも加齢現象が、と思ったのだが、別の原因に気付いた。COVID-19だ。これまでTV番組の収録では画面に写りさえしなければいくらでも機材を出演者に近付けることができた。しかしこのCOVID-19禍ではシロクマ1頭分以上の距離を空けなければならない。しかも収録場面によっては出演者の間にアクリルボードが立てられていたり、出演者がマスクやフェイスガードを着用している。こういった状況ではかつてのようなクリアな音声を拾うことはできない。
 それに気付いたきっかけはニュースの映像だ。確か何らかの行政の問題で担当者が回答文章を読み上げていたのだが、その映像が左右に小さく揺れるのだ。それまでこうしたパブリックな報道で映像が揺れることなど無かったのに、おかしいな、そう思った時に合点がいった。距離を取っているのだ。これまでは近い距離の安定した状態で撮影していたのだが、今は離れた場所から望遠/拡大して撮影している。そのため僅かなブレも大きく映像に影響してしまうのだ。
 そのブレは映像では「揺れ」として写り、音声では音のエッジがぼやける。だから聞き取りづらい瞬間が発生するのだ、と私は解釈した。
 進化する音声技術にかぶさる退行の波。それでも最終的に真実を語ってくれればそれでいい。


今日の英語:Audio equipment

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