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新ジャンルの日本酒「クラフトサケ」を知っていますか?

「クラフトサケ」というものを紹介する前に、まずは清酒製造免許について説明しておかなければならない。

酒造関係者以外は知らない人が多いと思うが、実は「新たに酒蔵を立ち上げて日本酒を造りたい」と思っても、国内で日本酒を製造する免許というのは新規に取得できないことになっている。(海外輸出向けの製造免許は下りる)
たまに「新しい酒蔵ができた」と聞くが、あれは廃業した酒蔵の免許を譲渡してもらって清酒製造業を継承しているだけで、新規に免許を取得したわけではないのだ。
これは別に意地悪でやっているわけではなく、国は伝統ある酒蔵と日本酒文化を法律で守るために、新規参入を阻んできた。

ただ、「それでは日本酒業界は発展しないのではないか?」「日本酒はもっと自由でいいんじゃないのか?」と疑問を持ち、行動を始めた人たちがいる。それが「クラフトサケ」を造る醸造家たちだ。

ここでもう一つ知っておいてほしいのは、現行の酒税法において、日本酒とは「米、米麹および水を原料として発酵させて、濾したもの」と定義されていること。つまり、「米、米麹、水」以外の原料を加えたもの、「濾さない」ものは、日本酒とは認められない。

そこで、日本酒製造業で新規参入できない人たちは、「その他の醸造酒」という免許を取得し、酒を造る工程で少しだけ「米、米麹、水」以外の原料を加えたり、濾さずに濁ったままで商品化したりすることを考えた。
「クラフトサケ」とは、日本酒の製造技術をベースとして、米を主原料としながらも、日本酒の定義にハマらない工程を取り入れた新ジャンルの酒なのだ。

6月初めに、秋田県男鹿市にあるクラフトサケの醸造所「稲とアガベ」を訪ねて取材した。2021年に設立したばかりの醸造所だ。

JR男鹿駅のすぐそばにある醸造所「稲とアガベ」

アガベとはテキーラの原料で、ここでは日本酒を造る工程で少しだけアガベシロップを加えている。これにより「日本酒の定義」からは外れるため、「その他の醸造酒」免許で酒を造り、販売することができるのだ。
アガベシロップだけでなく、ホップを加えたり、濾さない「どぶろく」を造ったりと、アイテムも豊富だった。

社長の岡住修兵さんへのインタビューは3時間に及んだが、いくら時間があっても足りないほど、とても内容の濃いものだった。まだ30代という若さもあるのか、会話のすべてが希望に満ち溢れていた。
「日本酒に関わる仕事をしたい」と大学時代に決意し、秋田の新政酒造で4年半、蔵人として働いたこと。自分を救ってくれた秋田へ恩返しするために、県内で醸造所を立ち上げる場所を探し、男鹿市に辿り着いたこと。農業系融資のおかげで2億円もの融資をうけられたこと……。聞いているだけでワクワクするような開業までの道のりだった。

さらに面白かったのは、過去から現在までの話より、岡住社長が描く未来のビジョンだ。
岡住社長は、男鹿市が魅力のある土地なのに、ドライブで通り過ぎてしまうだけの場所であることを残念に思い、醸造所をこの地に立ち上げた時、いずれはたくさんの人々が「行きたいと思う場所」にしたいと考えていた。

「酒蔵は人が集まるハブになる」
岡住社長のこの言葉通り、醸造所を立ち上げると、クラフトサケを求める人はもちろん、共にイベントをする人、岡住社長と一緒に働きたいという人などがどんどん集まってきた。
これから醸造所の周囲には、ラーメンやパン、スイーツ、寿司などの飲食店も開業予定だという。また、クラフトサケを造る工程で必ず出る「酒粕」を廃棄せずに活用したいと、加工工場を建設し、「発酵マヨ」というマヨネーズ風調味料の開発まで始めている。

取材に訪れた時、正直に言えば、醸造所の周りはかなり廃れた印象だった。
シャッターの閉まった町並み、営業しているのかわからない宿泊施設、利用者がほとんどいない静かな駅……。
でも、岡住社長の話を聞いていると、そこがどんどん生まれ変わっていく絵が描けた。醸造所を中心に、町がイキイキと輝き、遠くからも人が集まって来る。そんな未来はもうそこまで来ていると感じられた。

また、岡住社長は「男鹿酒シティ構想」というものを掲げて取り組んでいる。男鹿市を実験的に「日本酒特区」とし、清酒製造免許の新規申請ができるようにすることで、若い醸造家たちを男鹿市に集めようという構想だ。
法律を変えるのは容易なことではないが、「稲とアガベ」の知名度が上がり、協力者が増えていけば、近い将来必ず実現できると信じて進んでいる。

「男鹿市の人たち、喜んでいるんじゃないですか?」
私が訊くと、
「市長とか、市役所の人とか、みんな楽しそうですよ」
と岡住社長も嬉しそうに言った。
過疎化が進み、人が減っていくだけだった町に活気が戻り、人が集まってきたのだから、そりゃ嬉しいだろう。酒蔵の力ってすごいなぁ、岡住社長って本当に魅力的な人だなぁと、私はただ感動していた。
この人ならきっと「男鹿酒シティ構想」も実現できる。きっと日本酒の未来を明るく照らす道をつくってくれると思えた。

取材から帰って、個人的にこれからもクラフトサケを応援していきたいと思っていたら、クラウドファンディングのMakuakeで「6つのクラフトサケ醸造所が挑む、日本酒とクラフトサケの未来を造るプロジェクト」というものを見つけた。

クラフトサケ醸造所のWAKAZE、木花之醸造所、haccoba、LIBROM、稲とアガベ、LAGOON BREWERYが、同業者組合として「クラフトサケブリュワリー協会」を立ち上げます。
クラフトサケを広め、その社会的な地位を確立しながら、これから生まれる醸造所を支えることで、日本により豊かなサケ文化を築くことを目指します。

Makuakeより

これは応援せねば!と、すぐにサポートした。
そのリターンとして、6つの醸造所のクラフトサケを飲み比べできる「自由な酒造り」感じるmini6本飲み比べセットが届いた。

すべて300mlの小瓶。ラベルもカワイイ♪

まだすべては飲んでいないが、「稲とアガベ」のアガベシロップを加えたお酒は程よい甘みと米の旨みが感じられて美味しかったし、「WAKAZE」の黒茶・紅茶・ジャスミン茶の入ったお酒は、爽やかなお茶の味がして女子ウケしそうだなと思った。「LAGOON BREWERY」のお酒は全量麹仕込みで、それも白麹だけで造ったというもの。酸味とやさしい甘みがあり、乳酸菌飲料のような味わいだった。

日本酒の製造免許がないからクラフトサケを造る。
これは決してネガティブなことではない。
そのことはクラフトサケを口にするとよくわかる。
日本酒はこんなにも自由なんだ、自由でいいんだと思える。

「日本酒は苦手」という人でも、これなら飲めるかもしれないし、日本酒に興味がなかった人が口にするきっかけになるかもしれない。
そうして、いつかクラフトサケと日本酒の境界線がなくなり、私たちの大切な文化である日本酒をみんなが楽しんで、日本酒業界が再び盛り上がる日が来るかもしれない。
クラフトサケは、そんな明るい未来を思い描かせてくれた。


ちなみに、「稲とアガベ」の記事は、「酒蔵萬流」33号の特集で書かせていただきました。

▼酒蔵萬流について詳しくはこちら▼


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