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「おじさん」が働いていた酒蔵へ

先週、徳島へ出張取材に行って帰ってから、少し体調が悪い日が続いている。前週には岩手もあったし、疲れがたまっているのかもしれない。

7年以上やってきたレギュラーのライティング案件が、一年以内になくなると聞いたショックも大きかった。私が切られるのではなく、企業の方針と予算の都合により、プロジェクト自体が終了する。月5万円程度の案件ではあるが、毎月の定期収入だったので、このマイナス5万円はかなりイタイ。
それに、長年やってきたので、なくなること自体の淋しさもある。

もういよいよ商業ライターを終わらせる時が来たってことなんかな、とも思う。
そういうふうに運命は動き始めたのかもしれない。
それについてはまたゆっくり語ろう。

今日は徳島の話。
実は、今回の取材先である某酒蔵は、私の親戚が働いていた蔵だった。(取材記事は「酒蔵萬流」4月号掲載のため、酒蔵名は伏せておきます)

私の夫は大阪生まれの大阪育ちだが、夫の両親は2人とも徳島県の出身で、向こうには両親の実家もあるし、親戚もたくさん住んでいる。
夫のお父さんのお兄さん、つまり私の「おじさん」にあたる人が、長年にわたりその酒蔵で働いていた。15年ほど前に退職している。

今回、この蔵が取材候補に挙がっていたので、営業さんに「おじさんが勤めていた」話をすると、ありがたいことに私を担当にしてくれた。
夫のお母さんに取材に行くことをメールしたら、
「えっ!すごい!みんなに電話してみる!」
と興奮した返信。
おじさんの家や他の親戚にも電話して、なんだかビッグイベントのようになってきた。

まあ、こう言ってはなんだが、田舎の小さな酒蔵で、造っているお酒も地元流通がほとんど。他府県の人には銘柄もほぼ知られていない。
もちろんメディアに取り上げられる、なんてこともないから、業界誌とはいえ、「雑誌の取材が来る!」「それも親戚のかおりが書くらしい!」と、親戚一同がどよめき、湧いた。

珍しく夫のお母さんから電話までかかってきて、親戚から聞いた酒蔵の今の情報を詳しく教えてくれて、何度も「嬉しいわぁ」「すごいねぇ」と繰り返してくれる。
そうか、こんなに喜んでもらえることだったんだと思い、なんだか親孝行、親戚孝行できたような気持ちになって、私まで嬉しくなってしまった。

「仕事の人と一緒なん? 1人じゃないから、おじさんの家には寄れない?」
「泊まるのはホテル? S子(お母さんの妹)がうちに泊まってって言ってるけど」
とまで言ってくれる。
無理すればできないこともなかったが、今は体力的な問題が大きくて、ただでさえハードな取材後に、慣れない環境に身を置いて、親戚に囲まれて気をつかいながら楽しく会話ができる自信はなかった。それで、「仕事なので別行動は無理なんです」とやんわり断った。(元気な時の私なら寄っていただろう)
「そうか、そうやんねぇ」と残念そうな様子のお母さん。
「記事が掲載されるのは4月号なんで、まだ先ですけど、できたら皆さんにも送りますね」と言うと、「楽しみやわぁ」とまた喜んでくれた。

そんなわけで、今回はちょっといつもと違う気合を入れて取材に臨んだ。
行ってみると、想像していたより敷地は広い。造っている量はそれほど多くはないが、人の手をしっかりかけて丁寧に造っていることがわかる。
ひと言で言えば、「誠実な酒蔵」だなと思った。地元流通の手ごろな価格の本醸造が主流だが、細やかな酒造りをしている。

先代が亡くなられたばかりで、まだ20代の若い5代目が社長を継いでいた。
急に経営を任されて大変だったろうが、自ら蔵に入り、酒造りにも携わっている。「もっと勉強して、もっといい酒を造れるような蔵元杜氏になりたい」と今後の目標を語ってくれた。
これからどんなふうに蔵が変わっていくのか、私も楽しみだ。

また、30年以上勤めているという杜氏さんがいたので、「おじさん」のことを覚えているか尋ねてみた。
名前を出して、親戚だと言うと、「もちろん覚えてるよ~。親子くらい歳は離れてたからかわいがってもらってねぇ。たくさんお世話になりました」と喜んでくれたので、それも嬉しかった。
もう少し私のほうに「おじさん」の情報があればよかったのだが、実際にはほとんど会ったことがないので、挨拶程度の会話しかできなかったのが残念だった。

帰宅してすぐにお母さんにメール。「覚えていた人がいましたよ」と、杜氏さんの言葉を書いて送ると、「そう!兄さんのことを覚えてくれてる人がいたのね。うれしいわ」と返信があった。
なんだか重大な役目を果たしたような、清々しい気持ちになった。
いい原稿を書かなくてはいけないな。(いつもと違うプレッシャー!)

年内の酒蔵取材はこれで終わり。
例年より少ないけれど、今の体調の私にはこれくらいが限界だ。
体調不良を理由に原稿の質を下げないようにしなくては。

毎日思うように体が動かなくて、心が折れる日もあるけれど、でも、今の自分にできることを一歩ずつやっていこう。
明日は今日よりもっと良くなると信じて!

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