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発達障害で無関心な父にカミングアウトした話

関心がないことは好都合だと思っていた過去の自分とその父親について

■実家の会社を勝手にLGBTフレンドリー企業に設定した経緯

 私は発達障害と診断された当事者であり、またおそらく高確率で発達障害であろう父親をもつLGBT当事者でもある。私の家族には以前の同性パートナーと養子縁組したときにカミングアウトせざるを得なかったので、家族全員にカミングアウトした。

 父親以外は驚いていたが、父親の反応は想像よりずっと薄かった。「ああ、そうか」くらいの言葉しかかけられなかった。私は実家の会社の役員なのでGoogleのビジネスアカウントで実家の会社を勝手にLGBTフレンドリー企業に設定したが、おそらくこれを社長の父親に言っても経営に支障がなければ「どうでもいい、好きにすればいい」という反応しか返ってこないだろう。

 いくらLGBTという言葉が世の中に認知されているとはいえ、いざ自分の身内に性的マイノリティであることをカミングアウトされたら動じない人はいないと思っていた。

 特に高齢の世代であるほど、寛容になることは難しい。それは本人の育った社会的な背景が、長いこと性的マイノリティへの偏見と嫌悪に塗れていたからだ。

 もし同性婚パートナーと一生を添い遂げるのならば、この先お互いの病気や突然の不幸などで認知されていなければ不都合が生じる可能性もある。だがお互いの家族に同性のパートナーを紹介したくても、理解されることが困難で諦めざるを得ないという話はまだ多い。

 だから私は「興味がないことはどうでもいいし理解する気もない」という性格の父親に性的志向をカミングアウトしても、特に反対もされず興味を持たれなかったことは下手に反発されるよりむしろ好都合だと思っていた。

 せめてささやかな父親や世間への反抗と意思表示として、社会に一つでもLGBTフレンドリーな企業が増えて欲しいことを願い、Googleのビジネスアカウントでは会社の項目に「LGBTフレンドリー」を追加したのだった。

■理解されなくても平気だった

 親に関心を持たれないことは寂しいと普通は思うのかもしれない。しかし私は物心つく前からずっと両親とは疎遠で、そもそも関心以前の問題がたくさんあったので気にならなかった。
 私の母親は私が9歳のときに離婚して家を出たので、その後養育したのは祖母だった。

 父親も私も発達障害の傾向がある。発達障害(現在では自閉症スペクトラム障害)の特性の一つに「興味の幅が狭く限定的である」という特徴がある(注意:全ての発達障害の方がそうである訳ではありません。特性の種類や度合いは一人一人違います)。

 つまり興味があることとどうでもいいことの落差が激しすぎるのである。興味があることに対しては神経質なくらいにこだわるが、興味が持てないことは本当にどうでもいい。しかも父親はコミュニケーション能力に難がある人間だった。

 私が経営に携わっていた時期は、こだわりが強く頑固で話が通じない父親に腹を立てたことがよくあった。だが発達障害の存在を知り、父親の色々な特性だとわかると全部腑に落ちて納得した。

 私には寂しいという自覚すらなかった

「寂しいと思っても解決するわけではないから考えるだけ無駄だ」と理屈で考えると、感情的にならずに割り切れた。それに私は感情に関する質問をされることがとても苦手だった。全く寂しくないといえば嘘になるが「理解されないと不便だ」と思う程度だった。

■仕方がないと諦めていた背景

 私も興味がないことに興味を持てと言われても無理だし、無理やり理解を迫られることに強いストレスを感じるので、以前は父親の心境が理解できなくもなかった。
 父親も私も感情というフワッとした曖昧なものを言語化しうまく伝える行為が何よりも苦手だ。しかも父親は自分の考え方以外をあまり考えたことがないので、感情的になるとどんなに他人が理屈で説明しても理解できない。

 私は幸いにも上に姉と兄がいてそれぞれ子供がいる。だから結局父親の望む医学部に行かず、会社も継がず、適齢期に条件のいい異性と結婚もしなかった私のことは本当にどうでもよく、とりわけセンシティブな性的指向など興味が持てないのも無理はないと思っていた。
 父親は自分の子供が成人し会社の経理をしていた祖母も亡くなり、心の拠り所が自分の会社一本になってしまった今では孫にすら興味がないからだ。孫に会っても口をひらけば会社の話と自分の好きな歴史の話しかしないので、兄嫁も姉もあまり実家に子供を連れてこなくなってしまった。

 それらの背景があったから私は父親に対して色々なことに理解を求めても無駄だと諦めていた。しかし割り切っていたはずなのに自己肯定感と自尊心は下がり続け、虚しさが募る一方だった。

寂しくはないが、虚しい。
この二つは似ているようで違う。
虚しさは「求める」という次元ではなくて、最初から「何もない」ような虚ろな感覚に陥るからだ。

私が虚しくなっていた理由は、友人との付きあいで判明した。

■理解しようとしくれる友人に気づかされた

 私が学生インターン時代に一緒に仕事をした男友達に、東大院卒でMBA(経営学修士)を所持している会社経営者がいる。彼はとても優秀で頭が良く複雑な事柄に対する理解力もあり、そして多くの人が感じる「普通」や「常識」の感覚を持ち合わせている。一言で言うと優秀な性的マジョリティだ。しかし私の性的指向は全く理解できない。

 友人は今までに私からするとびっくりするような質問を何度もしてきた。だが私は怒ったり呆れたりすることを通り越して「これが完全な異性愛者で性的マジョリティの感覚なのか」と、性的マジョリティ側の意識を参考にする手助けになった。

 例えば今までに何度も「なんで同性を好きになるの?」とか「いつからバイなの?」とか「相変わらずバイなの?」などと聞かれたことがある。
 それは「同性を好きになるには何か特別な理由がある」とか「性的指向は自分の都合で変えられる。だから期間を限定できる」と思っているから出てくる質問だ。
 しかしそういう発想で誤解しているのであれば、逆に世間でも性的嗜好(趣味)と性的指向を混同する人が多いのも頷ける。

 私は父親が自分に興味がないからこそセクシャルマイノリティでいても自尊心を傷つけられることを免れてきた、と思い込んでいた

「仕方がない」と諦めれば、「理解してほしい」と期待することもない。
だから結果的に傷つかなくて済む。


 しかし、どんな偏見や誤解を抱いていたとしても自分に興味を持ってくれた友人の姿勢は嬉しかった。理解できなくても質問し、理解しようと努力してくれる友人の長年の姿勢によって、私は父親にも本当は理解して欲しかったのだと気づいたのだ

 でもそれは無理なので「発達障害だから」とか「生まれ育った環境のせいだから」とか色々な理由を積み上げて「仕方がない」と割り切り、諦めていた。
 父親に理解されないことへの虚しさが私の自尊心を損なう一因だったという事実に蓋をし、目を逸らしてきたのだった。

■感情は理屈で理解できない

 あくまで私の経験上だが、私が定型発達(健常者)よりも他人への共感や理解が困難なのは、
・興味が偏っているので興味のないことを理解する意欲が出ない
・共感能力が低いため、理屈で説明できない他人の感情的な部分を想像することが難しいことがある
・白黒ハッキリと結論がでないことにストレスを感じ、場合によっては結論が出ない問題を回避する
からだと思っている。

 私にとって感情というのはとてもめんどくさくて非合理的だ。好きと嫌いという感情を同時に内包する矛盾も成立しうる。複雑な感情は簡単に言語化することができない。メリットとか合理的とか便利とか、そういう損得で考えたらデメリットやリスクしかなくても抱かざるを得ない非合理的な「感情」を持ち合わせている部分が、人間が他の動物とは違う特性なのだと思う。

 先ほど理解しようと歩み寄ってくれている男友達の話を書いたが、彼のスペックを詳細に書いた理由は「どれだけ頭がいい人間でも感情を理屈で理解することはできない」ことを示唆したかったからだ。

 異性愛者の彼にとっては私の同性を愛する感情を想像することや推測することはできても、本当の意味で共感し、理解することはできない。だから何度でも質問してくる。
 しかし世の中にはまだ理論的に解明されていないことが山ほどある。科学の分野ですらそうだ。それならなおさら人間の感情を理屈で説明するのがいかに困難であるかが推測できるだろう。

感情が理屈で説明できないからこそ、性的志向も理屈では説明できないのだ。

 人間が理屈では説明できない複雑な心の機微だからこそ、どんなに理解することが困難でも理解しようとしてくれるその姿勢が嬉しい。
 分からないとしても「分かろうと努力する」姿勢は他者と関わるときには必要だ。それは相手との距離が近ければ近いほど重要なことだ。私もかつて自分がそうされたかったように、たとえ理解できなくても相手の気持ちを理解しようとする姿勢を忘れずにいたい。

 私は個人的には「コミュニケーション能力は磨き続けることをサボると錆びる」と思っている。ものごとを理解したつもりになれば、その瞬間に人間の成長は止まる。そうしてコミュニケーションをサボってきたツケが積もり積もって、現在の父親や似たような状況に陥っている孤独な高齢者を見ていると、余計に他人事とは思えない。

(「父親は無関心だっただけで虐待するような毒親ではなかったのでは?」と思われるかもしれないが、虐待に相当するエピソードは別にあり、幼少期の経験によって現在の私に困っていることがあるので別の機会に書こうと思う)



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