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❇︎Prologue❇︎ たなびく風に運ばれてゆく記憶の行先を、ぼくは知らない。けれど、この風はきっと誰かへと手向けられていて、紡がれ、結ばれる為に吹いている。そして、幾つもの月日を越えて、記憶のありかへと巡り着いたとき、ぼくたちはそれを、愛と呼ぶのだと思う。 01girl 『あめの温度』 あめの足音をなぞるように泳ぐ魚たち。 窓辺から届く草花の匂いが、紫陽花の彩りをつくり、 やがて、水のなかへと沈み虚っていく。 あめは、古い記憶を連れ立ってくる。 しとしと、しとし
肌寒い風が、きみの髪をさらりなびかせている。 桜のあしあとを辿るように、僕は息を吐く。 吐いた息は白く濁ることなく余白をつくる。 きみとのあいだを冷たく隔てるように。 (見つからなかった花びらは孤独であることを まだ知らないらしいよ) 掬われるために生まれたわけじゃないから、孤独なんて言葉は相応しくないけれど、まだ、の含みにボクが含まれていることを願った。 願っ た 。 (願いほど健気なものはないね) そうだね。 信じられる言葉はすくないけれど 神様
どんな言葉さえも届かないあの空の麓で 平穏な日常が取りもどされることをいのり がらんどうの街に立ち尽くした。 (あのおとはだれのあしおと) 空中を漂っている、あのひとは、どこへ還る ちいさな画面のなかで、しらない、ひとが、 泣いている 不和の衝動に取り残された小さな掌 握りしめた文字が温もりを生み 閉じた掌がいつか芽吹きますように 血塗られることを望みませんように ひらひらと、空が舞う季節のなかで 途方もない祈りと共に、青空は澱むことなく深く広がり
生きていくうえで、他者との交流は必要不可欠なことである、という事実は真綿で首を絞められるような感覚さえある。たったひとりですべてを完結することが出来るのならば、きっと、畑を耕し湧水を汲み、小鳥の囀りに耳を傾け、花や木々が枯れる事で季節を感じ、静かな夕暮れに包まれながら眠りについていたんじゃないかな。と思う。 けれど、便利という誘惑に魂を売ってしまった以上、それらを手放すことは脅威でもあって、こうして文章をつくる為のスマホや、暗闇を照らす照明、楽に長距離を移動する手段やあれや