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【続編】弱くてもされどワン・ツー~第三話~魔法使い~

髪をすくだけだったので、十五分位で関根のカットは終了した。
和生人「関根さん、あの、、終わりました」
関根が鏡越しに和生人を見る。
関根「ねぇ、これが本当に私に似合う髪形だと思って、声をかけたの?」
和生人は黙り込む。関根はゆったりと言う。
関根「私は泉君にオーダーしたのは変身させて下さい、だよ。このまま終わって、君は後悔しない?」

関根が言う言葉に、和生人は意を決して発言した。
和生人「あの、すみません!俺、関根さんをショートヘアにしたいです。どう……ですかね」
関根「素敵になるなら喜んで!んじゃなる早で頼むよ、泉君♪」
和生人「かしこまりました!」
返事と同時に手を動かす。切ることだけに集中しろ。頭の中にあるイメージをなぞるんだ、そして現実の形に。
時計を見ながら、慎重にカットを進めていく。関根の長い綺麗な髪がばさり、ばさりと床に落ちる。大切な髪を切るんだ、絶対、素敵にしてみせる。

鏡越しに関根は和生人の手際をみながら話かける。
関根「うちは前に泉君がいたお店より多分、お客様の年齢層が高め。よくミドル世代、シニア世代と言われるところがうちの顧客様ゾーン。だから貴方が変に意識しなくても、お客様の方から貴方に自然に話しかけてくれるし、受け入れてくれるわ」
集中しているため返事をしない和生人に続けて話す。

関根「それに会話が得意じゃなければ私たちにパスすればいいだけ。貴方の強みは発想力とずば抜けたセンス。そこに技術力が加わったら鬼に金棒じゃない。泉君がうちに切りに来た頃ね、小さいのに自分の希望がちゃんとあって。それにならないと絶対嫌で。許してくれないの、そんな貴方の髪を切ってたのよ、私」
関根は昔を思い出して(* ̄▽ ̄)フフフッ♪と笑う。カットが終わり、和生人がケープを外す。それは魔法使いが魔法をかける様な、そんな神聖な瞬間。

和生人「どう、でしょうか」
そこにはロングヘアーから軽快なショートヘアに変身した関根がいた。女性らしい丸みを残しつつ、サイドの髪は少し前下がりの長さが、関根の女性らしい強さをしなやかに表現していた。元のブラウンカラーが良く似合っているデザインだ。時計を見る、残り時間十分だった。
関根「上出来、最高よ!見て、須藤君!私の大変身を」
須藤「凄いですね、まるで別人じゃないですか」
お客「まー素敵!ロングより似合ってるわ。彼、お上手ね~」
和生人は照れ臭いのと、嬉しいの両方が気持ちを満たしていた。その日は面談と実技試験を終えて、店長や須藤さんが接客や施術をする様子を椅子に座って黙って見ていた。
分かったことは、二人とも施術が早いのに、丁寧であり、トーク力も抜群だということだ。お客さんはみんな本当に嬉しそうに店を後にしていく。二人の温かな人柄と敏腕な技術力があれば、そりゃノエルはずっと繁盛するよな、と和生人は心の中で何度も頷いた。

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こうして一日お店体験を経て、和生人はノエルの(仮)メンバーとなった。'(仮)'は和生人の希望で、暫くの間は自分の働きぶりをみてから、採用するか決めて下さい、本当に、物忘れしたり、レジミスとか、カード控えを無くしたりとか、色々やらかすんで。と和生人は隠さず自分のダメさを伝えた。

すると電話が鳴る、一番下の和生人が出ようとすると、苦手なのを知ってるのか必ず二人のどちらかが出てくれる。馴染のお客様が多いから、予約のついでに話せるからいいのよ~と店長は笑ってくれ、須藤さんにもお礼をいうと、
須藤「僕なんか最初、電話全部シカトしてましたよ(エンジェルスマイル)そしたら店長に出ろと強制的に。。(泣く真似)泉君は偉いですね」
須藤さんは冗談とか言わないクールな人だと思っていたら、気さくでとても優しい人だということが分かった。
レジも二人がナチュラルに接客の合間にこなしてくれるので、以前の様な和生人のケアレスミスはなくなり、お客様相手に黙々と得意なカットをしているとマダムの方から嬉しそうに話しかけてくれる。まさに和生人にとってこの上なく最高な働く環境がそこにはあった。

だから……忘れてたんだ。
何もかもがうまくいってる、そんな時に事件は起きる事。
両親が亡くなったのも俺の美容師の国家試験が受かった時じゃないか。

いつもの様に店長からカットを頼まれた。三十代のキャリアウーマンで、トークよりスピード重視な事。長年通って下さっている大事なお客様である事。和生人は自分の得意分野だと、少し調子に乗っていた。

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