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鉄道絵本レビュー(14) ひいばあのチンチンでんしゃ

鉄道絵本紹介、第14弾はこちらです。

「ひいばあのチンチンでんしゃ」

作:さくらいともか

岩崎書店

前回、路面電車の日(6/10)にちなみ、「すすめ ろめんでんしゃ」を紹介しましたが、路面電車関連も素敵な絵本がいろいろあり、路面電車ものを続けることにして、今回はこの絵本を紹介したいと思います。


ものがたり


この物語の語り手は小学校高学年くらいの男の子ですが、男の子のひいおばあちゃん、「ひいばあ」は路面電車を眺めるのが大好き。
そんなひいばあの所に、ある日特別なきっぷが届きます。

男の子は、ひいばあとおばあちゃん、お母さんと一緒に電停に向かいます。
するとやってきたのは小さな古い路面電車。
貸切で乗せてもらって、出発します。
ひいばあは、特別に女性の運転士さんの近くに座らせてもらってうれしそう。でもなんで?

ひいばあ達の乗る車両について


ひいばあたちの乗っている路面電車は、丸窓・ダブルルーフの古典的な木造2軸単車です。
木造車であることはもちろん、単車(カーブで首を振るボギー台車でない、車体と2軸の車軸を直接バネで繋ぐタイプの車両。電車では初期の小型車がほとんど)であることから、相当古い車両であることが想像されます。
でも、昔の話ではなく、近代的な車両に混じって現代の街並みを走っており、動態保存車と言った感じです。 

丘のある街の様子や、登場する車両たちを見ると、長崎電気軌道が舞台というか、モデルになっているのかな〜と推察します。
他の絵本ブログでこの本を取り上げている方がいて、絵本に描かれている渡り鳥から、長崎ではないかと推察されていて、すごい視点だな〜と感心しました。

しかし、登場する木造単車と同じ形態の保存車両は、長崎電気軌道には、見当たらないようです。

168号(元西日本鉄道153号)が似ていますが、単車ではなく、ボギー車であるところが異なっています。ちなみにこの車両は、長崎電気軌道のHPによると、現役最古の木造ボギー車であるとのことです。

広島電鉄の100形101号の方が、2軸単車であり、塗色の相違や、戸袋窓の形が楕円でないことを除けば、絵本の103号によく似ている気がします。

この広島電鉄100形は、1925年(大正14年)製の150形を、1984年(昭和59年)に改造し、1912年(大正元年)開業時の100形電車を再現した車両だそうです。定期運行はなく、イベント時等の運転とあるのも、この絵本の雰囲気に近い気がします。

他の車両達


他に登場する車両はどうでしょうか。

絵本の冒頭に、707とナンバーの入ったベージュとグリーンのツートンカラーの車両が登場します。角ばった車体の、いわゆる「軽快電車」と呼ばれるタイプの車両です。

軽快電車とは、しばらく新製の途絶えていた路面電車の停滞を打破すべく、完全新規設計の高性能車両を、車輌メーカーやいくつかの路面電車事業者が共同で開発し、1980年代に登場した車両です。

前回取り上げた、「すすめ ろめんでんしゃ」にも広島電鉄700形と思われる車両が登場しますが、この「ひいばあのチンチンでんしゃ」に登場する707号も、そっくりとはいえないですが、雰囲気は広島電鉄700形に似ている気がします。
本の中盤に、ライトの形が少し異なる717号車も登場しますが、同形式と思われます。

ものがたり(続き)


ひいばあ達を乗せたチンチン電車は、「おかのうえ」電停を発車し、池の端や桜並木のトンネルをくぐります。
「おかのしたのまち」に入ると複線になり、商店街を通り、家の軒先をかすめたり、路面電車同士もクロスする大きな交差点に出たりと、楽しい路面電車の旅が描かれます。

交差点では、路面電車用の信号についても説明があったり、軽快電車や、もっと新しい世代の低床車など、他の車両も登場して、鉄道好きにはたまらない描写が続きます。

そして貸切電車は、街の通り上の分岐から、車庫に入って行きます。
なんと、ここがこの電車の目的地だったのです。

「おめでとうでんてつ100ねん」という看板が掲げられた大きな車庫には、7両の新旧各種の路面電車が並び、たくさんの人や、楽隊の演奏とともに、103号とひいばあ達を出迎えます。

先の戦争の時、ひいばあは電車の運転手であり、「いまではまちでいちばんせんぱいのうんてんしゅ」ということで、スペシャルゲストとして電鉄100周年記念式典に呼ばれたのでした。

家族や、現在の女性運転手達と「まちでいちばんふるいでんしゃ」103号の前で記念撮影するひいばあ、そして最後のページには、昭和20年(1945年)3月に撮った、運転手だったときのひいばあと、103号と同形の電車の写真が描かれています。

まとめ


この本のストーリーからは、以前紹介した「ぼくのママはうんてんし」

の時に少し触れた、女性鉄道員の歴史を思い出します。
また、「デゴイチものがたり」

に比べたら本当にさりげなくですが、戦争の話も絡んでいます。

ストーリー、実在感のある、でも実物そのままではなくうまくアレンジされた路面電車達の姿、楽しい沿線風景、どれも鉄道好きには大変魅力的な一冊だと思うのですが、絶版になってしまっているのが大変残念です。

図書館や古本で見かけたら、ぜひ読んでみてください。

ちなみに裏表紙にさりげなく、ひいばあ(あるいはひ孫のぼく)が楽しんでいると思われる路面電車の鉄道模型(多分Nゲージ)が描かれているところも、とても自分のテツ心をくすぐられました。
とにかく素敵な一冊です。

では今日はこの辺で。ありがとうございました。


〜この絵本に登場する車両〜


長崎電気軌道や広島電鉄あたりがモデルと思われる
路面電車各種(モデル形式ははっきりせず)

・木造2軸でおへそライトの単車103号

・木造っぽい外観だがシングルルーフでおでこライト、冷房付きの車両

・鋼製だが軽快電車より前のトラムっぽい、緑色にクリーム帯のおへそライトの車両

・緑とベージュ(クリーム色?)のツートンカラーの軽快電車707・717(他にも車号不明の同型車ありライトの形で4種のバリエーションあり)

・色違いか別形式か、オレンジっぽい軽快電車

・低床連接車と思われる車両(グリーン一色と、江ノ電のようなグリーンとベージュかクリームのツートンカラー)


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