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鉄道絵本レビュー(8) デゴイチものがたり

鉄道絵本紹介、第8弾はこちらです。

「デゴイチものがたり」

作:萩坂 昇
絵:伊藤 悌夫

岩崎書店


前回の「きかんしゃやえもん」に続き今回も昔の話、SLものです。


SLといえば


今回の主人公は、日本のSLの中で最も有名であろう形式、SLの代名詞とも言える「デゴイチ」ことD51のお話です。
その名もズバリ「デゴイチものがたり」です。

表紙画像からもわかっていただけると思いますが、「きかんしゃやえもん」の方は、どこか漫画チックな可愛い絵ですが、こちらは劇画調(油彩で描かれているようです)で、ストーリーも史実に沿って展開しており、ドキュメンタリー的な面もある作品といえるでしょう。現在は川崎市の生田緑地に保存されている、D51 408号機の生涯を描いた絵本です。

D51について


D51は、1936年(昭和11年)から製造され、1945年(昭和20年)までに、日本の機関車としては最多の1,115両も製造された、日本を代表する貨物用蒸気機関車です。

台湾向けなどの海外用の69両も含めると、1,184両にもなるそうです。

日本の機関車としては電気機関車・ディーゼル機関車を含めても現在まで一形式として最大の両数であり、貨物用として戦時体制の輸送に応えるべく、大量生産されました。

大きく分けて、

1-85と91-100号機は特徴的な長いドームを持つため、通称「ナメクジ型」とも呼ばれる「初期型」、

86-90と101-954号機は初期型の欠点を改良した「標準型」、

1001-1161号機(955-1000は欠番)は、資材節約と工期短縮のために一部に木材なども代用した、戦時設計の「戦時型」、

に分類されるそうです。408号機は標準型ですね。

90両の貨物列車!?


さて、この本の主人公である、デゴイチことD51 408号機は、1940年(昭和15年)4月、名古屋工場で製造され、富山機関区へ配置されました。

日本海沿岸の路線で、雪の中を90両もの貨車を引いて走ったとあります。

今の貨物列車は、機関車とコンテナ車26輌で、合わせて約540mが最長だそうです。
この長さは、列車の追い越しなどのための、待避線の長さによる制限があるようですが、D51が90両も貨車を引いて走るとなると、どのくらいの長さになるのでしょうか?

D51の全長は、約20mもあります。一般的な2軸貨車の長さが約8mだとして、90両で720m、機関車と合わせて約740mにもなります。本当にこんなに長い編成の貨物列車が走っていたんでしょうか?

調べてみましたが、はっきりとした記載は見つからず。でもかつての東海道本線や山陽本線では、50両を超える貨物列車もあったとのことです。
全部8m級の2軸貨車だとして、50両でD51と合わせて420mなので、長さ的には現代の最長貨物列車より短いですね。

戦時中には100両の貨物列車もあったという記述も見かけましたので、北陸本線や信越本線で90両の貨車をD51が引いた、というのも実際にあったことなんでしょうね。ここはもうちょっと調べてみたいところです。

鉄ちゃんとD51の人生


登場人物として、「かまたきの鉄ちゃん」が出てきます。子どもの頃から機関士を目指していた熱心な若者で、D51 408は2度もいのちを助けてもらった、恩人です。デゴイチと会話をするわけではありませんが、よく運転した408号機に特別な愛着があるようです。

やがて、太平洋戦争が始まり、鉄ちゃんは徴兵されて南方へ行ってしまいます。デゴイチは、広島機関区に転属、空襲を逃れて夜でも灯りを暗くして、
隠れるように走っていたそうです。

その後、戦闘機に襲われて難を逃れた話、そして広島の原爆投下の話も出てきます。デゴイチは、前日まで広島にいましたが、原爆投下の日は、運良く九州で石炭を運んでいたそうです。
死んでしまった仲間の車両たちへの思いが語られます。

そして戦後の買い出し列車から、御殿場線、山手線へと転属して働いたあと、突然川崎の操車場にまわされて、休車になってしまいます。

戦時体制の貨物用として作られ、戦中戦後の過酷な運用をこなし、復興と共に急速に進んだ動力近代化によって、活躍の場がなくなる、多くのD51やSL達がたどった運命だったでしょう。

生田緑地で会いましょう


そんな中、D51 408号機もついに、電気機関車(EF15あたりでしょうか)に引かれて大宮工場へ連れて行かれました。道中何台もの東海道新幹線とすれ違った、とのことで、0系も描かれています。時代を象徴するシーンですね。

工場でバラバラにされたデゴイチですが、川崎市の生田緑地に運ばれ組み立てられます。鉄ちゃん達が、川崎市にデゴイチを残そうという運動を起こしてくれて、2度目の命拾いをして、今は穏やかな余生を送っている、というお話でした。

保存SLは、全国各地にありますが、1台ごとに、さまざまな歴史、ドラマがあったんでしょうね。「かまたきの鉄ちゃん」にも実在のモデルの方がいるのでしょうか。
生田緑地に行って、このデゴイチに会ってみたくなりました。

それでは今回はこの辺で。ありがとうございました。


〜この絵本に登場する車両〜


蒸気機関車 
D51 408号機 他形式不明車若干
貨車(形式不明)有蓋車・長物車・石炭車など黒い貨車多数
客車(形式不明)ダブルルーフの茶色い旧型客車、青い旧型客車
ディーゼル機関車(形式不明)DD51DE10あたり?
電気機関車(形式不明)EF15あたり?
電車 東海道新幹線0


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