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HOPE

あの頃の僕達はいつも一緒だった。

月並みだが、何処へ行くにも何をするのも。
おおよそ想像できる"青春らしい事柄"を沢山3人で共有した。
けれど僕たちの全てが平等だったかと言うと、必ずしもそうではなかったように思う。
彼が月なら彼女が太陽で、僕がその間を少し離れて周回する名前もない惑星と言った所だろうか。
お互い影響し合って、離れる事は出来ないのに届かない。はずだった。

3度目の夏、彼女は何も言わずに僕たちの前から姿を消した。少なくとも、僕は彼女にさよならを伝える事も出来ていない。
例えば、渡り鳥ならまた季節が来れば戻ってくるだろう。僕はその時が来るのをずっと待っていた。僕達は永遠に無垢なままで、真っ青な時間が終わることを受け入れる事は到底出来なかった。

今年の夏も、あの日と同じ海岸へ独りで足を運んだ。じりじりと暑い太陽と、遠くから吹く潮風。砂浜には誰かが捨てた壊れた水鉄砲と花火の燃え殻。
潮干狩りの宣伝をするのぼりだけは変わらず風になびいていた。それは「また来たのね、懲りないわね」と僕を笑っているかのように軽やかにはためいていた。
近場のコンビニで決まって買っていたアイスコーヒーは、いつの日からぬるい缶ビールへと変わっていた。

段差に腰をかけ、無作為に積み上げられたテトラポットを眺める。いや、無作為だなんてとんでもないか。きっと、あの並びにも計算された意味がある。僕の知らない意味が。

くしゃくしゃになったケースから煙草を取り出して火をつける。昔は煙草なんて大嫌いだったし、こんなもの好んで吸う奴はイカレてると心底見下していた。それが今、僕は何かにすがるようにショートホープを手にしている。
煙を深く吸い込むと、思わずむせ返ってしまった。大人にもなれず、子供にも戻れない。中途半端で宙ぶらりんな何か。この姿を定義づけするならそんな所だろう。
今となっては90年代のオルタナティブロックバンド達の手垢まみれになった自嘲的なナルシズムに浸る。古き良き思想だ。目の前の救いを求めるにはそれしか無かった。笑えてくる。

最期に僕たちが会った海岸。
あの日も僕達はなんの目的もなく、ただ海が見たいという欲求を満たすためだけにここへ来ていた。
海へ来たと言うだけで目的は達成されたわけで、具体的にやりたい事は何も無かった。
仕方ないので、砂浜にくだらない下手くそな絵を書いたり、誰が1番遠くまで石を投げられるか競ってみたりした。数枚の写真をとった。
貝殻を拾ってお互いに交換した。彼女が拾ってきた歪な形の貝殻を、僕はまだ捨てれずにいる。

僕達はせっかく海に来たのだから、少しだけ浅瀬に入ってみたくなった。ハンドタオルの類を一切持ってきていなかったことを後悔した。

男だからなんて事ではないのだが、僕と彼が先に靴を脱いで、ほんの少しだけ水に浸った。足先だけが別の世界と繋がった、そんな気がした。


「なぁ、俺たちこれからどうなるのかなぁ」

不意に彼がこぼした言葉に対して、直ぐに答えが出なかった。漠然とした不安が急に小波と共に押し寄せてきた。

後ろから、彼女が走ってくる音が聴こえる。
子供のように笑いながら、彼女は駆けていた。
僕は振り向く事が出来なかった。

あの時振り向いていれば。彼女の笑顔を見る事が出来ていれば、何か変わっただろうか。

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ハリボテの希望が煙と共に空へ昇って、消えていった。きっと何も始まってないし何も終わってない。

海鳥が遠くで鳴いていた。

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ライブあります。来てね。

6/5(土)
「ブッキングライブ@二条AFTERBEAT」

w/ 佐々木伶 / おみくじ / 二十人 / THE REMEMBER BEATS

start16:30

#バンド  #ショートショート #小説

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