いたずら1歳やりたい放題

 「恐怖の一瞬」というのはいつも突然訪れる。
 とある日の夕暮れ時、夫の帰宅を待ちつつ夕食準備のため、リビングと台所を行ったり来たりしていた。するとそれまで軽快なCMソングを流していたテレビが突然「ぷつっ」と消えた。
(え?もしかしてお化け?私たち気づかないうちに同居しちゃってた感じ?)
などと瞬時に思いを巡らせた。
あわてて机に手を伸ばすも、あったはずのリモコンはおろか他に置いてあったビニール袋や鍋敷すらもなくなっていた。さらなる恐怖に襲われた。
それでもこのままではいられないと思い、リモコンを探すべく椅子の上やテレビ台とあちこち探してみた。そして、ふとテーブルの下に手を入れた瞬間
「うわっ!」
と小さく声を上げてしまった。
生ぬるくむにゅっとした柔らかい何かに触れたからだ。何かと思いさらに触り進めると、その物体はひなちゃんのもっちりとした太ももであることがわかった。
ひなちゃんは机の下でカエルの様に脚を曲げ、ひっそりと座っていたのだ。
「なんだー、ひなちゃん。そこにいたの。」
と声をかけた。改めて何をしているのかと思いよく触ると、ひなちゃんはテレビに向けリモコンを構えるように持ち、角をガジガジと噛んでいたのだ。
私はテレビを消した犯人がお化けでなかったことに安心したと同時に、ひなちゃんの仕業であったことに驚いた。
何しろこれまでひなちゃんはテーブルの上まで手が届いていなかったからだ。知らないうちに、テーブルに手を伸ばし、物を引きずり落とせるようになっていたのだ。
言うまでもなく行方不明になっていたビニール袋や鍋敷もひなちゃんの周辺から発掘された。
 最近こうしたひなちゃんによるいたずらの高度化と対応の遅れによる両親の敗北が続いている。由々しき事態である。
 別の日には、テーブルに置いた塩をケースごとひっくり返され、お清めとばかりにたくさんの塩が床にばらまかれた。食器棚を開けられないようにと取り付けた子ども用のドアロックは、ゴム状のバンドもろとも引きちぎられ、棚の中に入れておいたタッパーやおむつは引っぱり出されていた。
 私たちはどうしたものかと協議を重ねた。しかしありとあらゆる角度から実行されるいたずらの事前予測は困難を極め、未然防止になりうる根本的な対策は未だ打ち出せていない。
 今ドラえもんに秘密道具を借りられるとしたら、悠々自適な生活を保障するための無限にお金を吐き出してくれるATMと、赤ちゃんによるいたずらを防止するための、子ども目線や発想になれる「なりきり子ども眼鏡」的なものがほしい。もはや神頼みに近い。
 ひなちゃんから繰り出される、1ミリも常識にとらわれないいたずらに収束の兆しは見えない。
 突如として実行されるユニークすぎるいたずらにひやりとさせられる生活はしばらく続きそうだ。

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